Dec10Mon

日本初のレジデンシャル・ドッグ HARUの箱根暮らし

2017.11.21

その犬は、ここを訪れる全ての人を幸せにするために生まれてきた。日本で初めてのHARUの試みを、箱根・強羅の四季の移り変わりとともにレポートする。

HARUの箱根暮らし
「レジデンシャル・ドッグ」って何?
ホテルに住む、ホテルで飼われている犬で、ホテルスタッフ同様、ゲストをもてなす。海外のホテルには「レジデンシャル・マネージャー」として、ホテルを住居とし(または近隣に自宅を構え)、ホテルとホテルのゲストを守る役目のマネージャー(支配人)が存在することがある。ここから「レジデンシャル・ドッグ」という言葉が生まれた。ラブラドールレトリバーのHARUは、日本初のレジデンシャル・ドッグとして箱根に暮らす。

10月1日は、箱根・強羅にある、ぼくのホテルの恒例行事、「暖炉開き」でした。
リビングルームの暖炉に火が灯り、ぼくがいつもお仕事しているロビーにも、薪が燃え香ばしい匂いが広がってくると、「秋だな〜」って感じるんだ。
今年の夏は、いつもの夏よりも、とても寂しい夏だったよ。
なぜって?
それは、ホテルが開業してからずっと見てきた、8月16日の明星ヶ岳の大文字焼きと花火が、雨と霧で曇って、見えなかったから……。
ホテル開業以来、そんな年はなかった。
もちろん、朝から晴れていて、素晴らしい大文字焼きが見えるときもあった。直前まで大雨が降っていたのに、いきなり止んで、きれいな大文字焼きと花火が見えた年もあった。
そのドラマティックな光景に、ホテルで一緒に働く兄さん姉さんたちも、「今年の大文字は神がかっているねー」って、むしろ自慢げに話してた。
そう、開業してから10年ずっと、大文字焼きは見えていて、ホテルの守り神的な存在でもあり、一度も中止や延期にならなかったコトは、もはや伝説になりつつあったのに……。
なのに11年目の夏は、大文字焼きの日が雨で、しかも止むこともなく霧に包まれて、暗闇の中でドーンという花火の鈍い音だけが響いていたんだ。
ぼくとしては、今年の夏、完璧な大文字焼きをどうしても見せたい人がいたのに、とても悔しかった。
お客さまも、ひどくがっかりして、次の日の朝食はいつもなら「昨日、花火きれいだったねー」って話で盛り上がるのに、なんだか静かだった。

来年は大文字焼きの日に晴れますように
お客さまもホテルのスタッフも、み〜んな楽しみな箱根・明星ヶ岳の大文字焼き。来年は晴れますように!

そんな寂しい夏が終わって、季節は行楽シーズン、山々が紅く染まる秋へ!
秋になると、ぼくらのホテルでは、外国のお客さまも増えてくる。普段は日本のお客さまの方が多いホテルだけど、行楽シーズンだけに、外国のお客さまもたくさんお見えになるんだ。
皆さんもご存じのように、2015年くらいから、たくさんの外国のお客さまが日本にいらしている。だから、「2020年の東京オリンピックを控えて、日本の魅力を海外にアピールするチャンスよね!」って、ボスママ(ぼくのボスで、ママでもあるひと)も言っている。
でもね、ぼくにとっては、外国のお客さまも、日本のお客さまも、何も違わない。
だって、ホテルのロビーや玄関で、予期せず、ぼくを見つけると、満面の笑みでぼくに近づいてくるのは、国や民族で大きな差なんてないもん。

箱根神社の階段をのぼるハル

みんな、嬉しそうに、懐かしそうに、ぼくの頭を撫でながら、ぼくを覗き込んで、ぼくのことを「元気〜」って感じで、まるで以前から知っているかのように、話しかけてくれるのだから。
この前も、ぼくと同じラブラドールレトリバーと住んでいる、アメリカからの旅行中のご夫妻が、留守番している犬に会いたい〜って、ぼくを撫でながら(正確には、ぎゅーっと強くハグしながら)話してた。
旅行は楽しいけど、お留守番している家族のコトを思い出すと、帰りたくなっちゃう瞬間って、あるんだよね。
そのお客さまは、しばらくの間ぼくのそばにいて、それから「ありがとう」って言って、ラウンジへ下りていった。
ホテルのレジデンシャル・ドッグとして、海外からのお客さまにもお役に立ってるんだな〜って、ぼくも誇らしい気持ちになっちゃうんだよね〜。

雨でもお散歩水たまり〜
生憎の雨だったけど、箱根神社で絵馬の奉納。早朝の神社の空気は厳かに澄んでいて、寒いくらい。箱根の秋は足早に過ぎてゆく。

当たり前だけど、ぼくは言葉を話せない。
でも、日本語はちゃんと聞くコトができて、実はボスママや兄さん姉さんの会話のおよそ半分は、分かっている(ここだけの話だけどね……)。
人の表情や、声のトーンや、雰囲気、それに人間が見逃しそうなサインを、しっかりと受け取れるからなんだよね。
だから、国の違いとか、関係ない。
それが、ぼくたち犬属なんだ。
でもね、ホテルの兄さん姉さんたちは人間だから、言葉は、お仕事ではマスト。
中国のゴールデンウィークと言われる秋の国慶節や中秋節、旧正月の春節は、中国からのお客さまも増えるので、メニューを中国語で作ったりする。
中国語の先生に翻訳をお願いして、お客さまに見せるメニューの準備をするんだ。
何を選んでいいか、何がオススメなのか、自国の言葉で書いてあるって、助かるよね。
旅の大きな楽しみは、食事だもん。

中国語のメニュー
ちなみに、「本日のアクアパッツァ」の中国語表記は、「当日例海鮮“意式水煮魚”様式」。イタリア(=意。伊ではない)式の水煮となる。さらに、「シーザーサラダ」は、「凱撒沙拉」と読み方の当て字なのだとか。

さらに、楽しみといえば、温泉!
ぼくのホテルには温泉があるから、外国のお客さまの話題にもよくのぼる。
温泉がない国のお客さまもいるし、水着を着て入るのかと勘違いするお客さまもいるし、海外からのお客さまにとっては日本の温泉文化は難度が高いらしい。
それでも、日本が大好きで、何度も日本に来て、温泉が大好きな海外からのお客さまもなかにはいる。
そんな方たちは、日本のお客さまよりも、温泉に対する理解やマナーが素晴らしかったりするから、一概に「外国の人だから温泉のマナーを知らない」とは言えない。
それでも最近、ぼくのホテルでも、温泉へ向かう廊下に、温泉マナーに注意を喚起するバナーを作ったんだよ。
藍染めの和てぬぐいに似せたデザインのバナーで、「温泉マナーを忘れないで」ってメッセージを書いている。
温泉は、心身を癒やしてくれる気持ちいい場所だから、お客さまみんなが気持ちよく過ごせるようにしたいから。だって、気持ちよく過ごすって、どんな国の人も同じで関係ないでしょ。

温泉の入浴マナーを守りましょうの手ぬぐい

あ、こんな話を聞いたよ。
外国のツアーのガイドさんが、「バスタオルを巻いて、湯船に浸かるといいですよ」って、びっくり仰天の話を、お客さまにしたんだって。
そのガイドさんは、数か月ほど日本に住んでいるけど、まだそんなに日本語も流暢ではなく、日本のコトも詳しくは知らない人だったらしい。
ガイドさんは親切な方らしいけど、なぜそんなコト言ったのか?
気になるでしょ? クイズだよ!
ワン、ワン、ワン、ワン……。
答えは、「テレビの影響」。
ピンポン、ピンポン〜、大正解!
日本のテレビ番組では、温泉に入る人は、みんなバスタオルを巻いて湯船に浸かっているよね。それを観て、このガイドさん、「こうすればいいんだ」って純粋に思って、お客さまに教えたんだとか……。
そのガイドさんも、ガイドさんに教えられて従ったお客さまも、何だか気の毒になっちゃうお話だよね。
世界屈指の「温泉大国」、日本。
お風呂好き、温泉好き、清潔好きの日本(ぼくもそう!)だから、シャワーを使って“洗い流す”だけではない、ゆっくりとお湯の中に“浸かって”心まで癒やされる温泉文化を、ホテルとしてもお伝えしていきたいよね。マナーも一緒に……。

芦ノ湖畔のHARU
参道を、芦ノ湖畔へ。この時、HARUの瞳はキラリと輝き、今にも飛び込もうと……。

温泉の話に関係するけど、神社での参拝の作法は、今どきの海外の日本旅行向けガイドブックに必ず紹介されているらしい。
お賽銭を、静かに箱に入れて、「二礼、二拍手、一礼」。
箱根神社にお散歩に行ったときにも、いろいろな国の人がいたけど、確かに同じようにやってた。
旅に出たら、その国のコトをちゃんと知りたいって、その国の人たちの気持ちも追体験したいって、国や宗教や文化が違っても、多くの人たちが思っているんだね。
でね、10月1日のホテルの「暖炉開き」には、毎年、箱根神社から、神事を司る人をお招きしているんだ。
暖炉の前にお供えを準備して、みんなの火の安全、お客さまの旅の安全、ホテルの安全を祈願する。「今季の暖炉も安全に、お客さまをあたため、ホテルをあたため、無事に冬が過ごせますように……」とお祈りするんだ。
これを、ボスママが始めたのには、ワケがある。リビングルームの大きな暖炉は、温かいホテルの中心的な存在で、いわばホテルの象徴でもあるから。
パチパチという火が燃える暖炉のそばで、ゆ〜っくりとお酒を飲むなんて、最高の過ごし方でしょ!

自宅でくつろぐハル
本邦初公開、HARUの自宅! お気に入りのクッションでの、特別オフショット。お隣は、超仲良しのルビーちゃん。

その暖炉で誰かが火傷をしたり、火事が起こったりしないよう、年に一度、暖炉を使う最初の日を「暖炉開き」として始めるんだって。
「火を敬って、火に畏敬の念を持って、それを注意していきましょう」ってコト。
四季がある日本のホテルだから、「暖炉開き」で秋を感じてもらい、春から夏へは、暖炉からキャンドルデコレーションに変わる、そんな季節の変化が大切なんだ。
だから、恒例行事のこの暖炉開き、今では必ず毎年この日に宿泊に来て、暖炉開きに参列してくれるお客さまもいらっしゃる。
こうした季節の節目の行事は、たとえ時代が変わっても、このホテルにずっと根付いていくはずだよね……。
あっ、もうこんな時間。
ぼくも、箱根神社へ、お散歩に行きたくなっちゃった……。
お願い事をして、鳥居を出たら、振り返って、軽く一礼をして! でしょ!?
ぼくも、分かってるでしょ〜。

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Tarzan No. 730 7つの鍵で開く、睡眠の門 掲載 〉
文/HARU 撮影/山城健朗 取材協力/ハイアット リージェンシー箱根 リゾート&スパ