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Tarzan 30th Anniversary スペシャル鼎談 本誌が目撃してきた日本のフィットネス事情を語ろう。

2016.07.29

編集者、トレーナーという立場で誌面作りに携わってきた3人が本誌の30年間を熱く振り返った!

坂詰:僕が出合ったのは大学時代。空手部の部室に、創刊間もない『ターザン』が『空手バカ一代』と並んで置いてあり、愛読していた。誌面作りをお手伝いするようになったのは、20年ほど前から。
大田原:本誌が創刊した1986年は、トレーニングが日本人のライフスタイルに根付き始めた時期。
坂詰:スポーツジムが都市部にでき始めてトレーニング環境も少しずつ整ってきた。『ターザン』はトレーニングを「鍛錬」や「修行」として捉える体育会的な発想から抜け出して、トレーニングこそ快適で楽しくあるべきだと提案した画期的な雑誌だと思う。
牧野:僕が『ターザン』に関わり始めたのは10年前。2007年に東京マラソンがスタートし、ランニングブームが本格化した頃です。
坂詰:80年代は筋トレよりエアロビクスダンスが先に流行りました。
大田原:エアロビと同じ有酸素運動でもランニングが流行しだしたのは2000年代に入ってから。初めはランニングブームではなく、マラソンブーム。何かに挑戦して達成感を得たいと考える人たちが、マラソンに挑み始めた。
牧野:皇居を走る人が大勢出てきた。僕が皇居にリサーチに出かけて観察していると、ウォームアップとクールダウンをしないまま、自己流で走っている人が大半。それではケガをする恐れがあるから、女性に特化したラン教室を始めた。
大田原:ここ数年はマラソンが目的ではないランナーが増えている。アメリカではすでにマラソンのエントリー数が減ってきている。
牧野:地方はまだマラソンブームだが、僕の教室にくる人の2割はマラソンにはなから興味がない。走るのが楽しいから、正しい走り方を教えてほしいという人たち。
大田原:トレーナー側の意識も変わった。トレーナーは競技者を教えるもので、月50㎞しか走らない素人にフォームを教える必要はないと頑なな人もいたのに、お客さんと認識するタイプが増えて誰でも気軽に教われるようになった。
牧野:ただお客さんとの距離感は大切。友達感覚だと本当の悩みは聞けないし、意識を変えることもできない。同好会かラン教室か、わからなくなるのは困る。

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裏テーマは日本人の体力の底上げです。

大田原 透(本誌編集長)

大田原:創刊当時のジムは20〜30代が大勢いたが、いまでは若い層が抜けて高齢者と子どもが目立つ。
坂詰:若い世代は不具合に直面していないから、フィットネスの優先順位が低い。女性だと興味があるのはファッション、コスメ、グルメ、旅行が上位に来るから、フィットネスの地位はまだ低い。
牧野:女性がファッションやコスメに夢中なのはキレイになりたいから。ランをはじめとするフィットネスが美容のソリューションになると体感した人は続けられる。
坂詰:筋トレに関して言うと、90年代まで欧米で主流だったバルクのある逆三体型が理想とされてきたが、日本人には響かなかった。
大田原:そこで2000年代後半から本誌が提唱しだしたのが「細マッチョ」。編集部でも「マッチョという古臭い単語を使うのはダサい」という異論も出たが、徐々に浸透してきた。細マッチョのイメージが年代や性別で違うから、誤解を避けるために初めは表紙写真をあえてチラ見せにしていた。
坂詰:最近ダイエットという言葉をあまり使わなくなりましたね。
大田原:肥満者が体重を落とすことは重要だが、読者の多くは普通体重であと2〜3㎏痩せたいという欲求が強い。だからダイエットという言葉を使わず細マッチョ、腹凹といったワードで訴求する。
坂詰:鍛えないと生活習慣病や要介護は静かに忍び寄る。メタボ予防を40代、ロコモ予防を60代からやっても遅いから早めに始めるべき。だから細マッチョになろう、お腹を割ってカッコいいカラダを作ろうと誘い続けているのでは?
大田原:本誌の裏テーマは日本人の体力アップ。アメリカは病気になるとコストがかかるから、そうなる前に鍛えようという風潮が強い。一方の日本は国民皆保険だから、不調になったら病院へ行けばいいとタカを括る人も少なくない。
牧野:ケガしたら走れないように、不調になってから鍛えるのは大変。健康のために走ろうではピンと来ないなら、キレイになるから走ってみようと言った方が反応はいい。

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20年関わっているのはトレーナーとして誇り。

坂詰真二さん(スポーツ&サイエンス)

坂詰:体脂肪率、基礎代謝、体幹といった専門用語を正しく広めたのもこの30年間の功績だと思う。
牧野:セミナーのメタボ腹の参加者でも「野菜から食べた方がいいんですよね」と質問する(笑)。
坂詰:「これさえ飲めば健康になれる!」という安易な情報に振り回される人も多いから、受け身ではダメで自分から行動を起こしてカラダを動かさないと何も変わらないと『ターザン』は言い続けている。そのお手伝いを20年間も続けているのは僕の秘かな誇りです。
大田原:ノウハウは提供できるが、実際にカラダを動かすのは読者。「似たテーマでよく月2回も出せますね」と感心されることもあるが、2週間に一度出し続けることで「今度こそやらなきゃ」という読者のやる気を煽っている。
坂詰:ジムに通うお金がもったいないから、筋トレも自体重で自宅トレの時代。『ターザン』を読めば自体重で細マッチョは作れる。
大田原:本誌も水泳特集が売れた時期もあったが、いまは水泳ブームもやや下火。英会話と同じで「泳げないと恥ずかしいでしょ」とコンプレックスにうまく訴えてきたが、最終的に水泳はプールに行かないとできないのがネック。
牧野:ランナーもかつてはジムで走っていたという人も多かったが、いまはジムに通わずランをやったり、ヨガをやったりしている。
大田原:若い世代にジムが魅力的な場所でなくなりつつある。
牧野:自宅トレをやっている人はジムでは集中できないと言う。ガチャガチャとうるさいし、やりたいマシンは塞がっているし……。
坂詰:僕はジム出身。健康になりたい人たちの大きな受け皿だと思っているので、万人にとって快適で魅力的な場所に変わってほしい。

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新しいスポーツに挑むきっかけ作りを続けて。

牧野 仁さん(ジャパンマラソンクラブ)

牧野:昔はマラソン挑戦をきっかけにトレイルやトライアスロンに挑戦する人が大勢いたのに、いまは一部の女性を除くと一つの種目にこだわる人が増えてきた。とくに男性は変なプライドが邪魔して、新しいものにチャレンジするのが苦手。臆病にならず、いろいろなスポーツに挑み、楽しんでほしい。
坂詰:筋トレ派、ラン派と派閥を作る必要はなく、両方クロスしてやった方がいい。その方が最短距離でカラダ作りができておトク。
大田原:フィットネスだけだと長続きしにくいので、そのアウトプットにスポーツがあっても全然いい。普段はジムで鍛えているけど、たまにはトレランをしたり、仲間とサーフィンやフットサルをしてみたり……。そうすればもっと毎日が快適になるという提案を今後もしていきたいと思う。


私の思い出の一冊

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ヨセミテでアメリカを満喫。
大田原「パタゴニア社の取材でアメリカ西海岸に2週間滞在。初めてのヨセミテの光景が鮮烈」
特別編集ムック(2002年9月1日発行)

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体育会的視点に異議あり!
坂詰「スポーツやトレーニングを独自の視点で斜に捉える野田秀樹さんの連載が新鮮でした」
No.32(1987年7月22日号)

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旅ランを時代に先駆けて提案。
牧野「この年から参画。走った後に入る温泉を紹介する時代先取りの旅ラン的な企画でした」
No.476(2006年11月8日号)


●おおたわら・とおる 1968年生まれ。92年本誌編集部に配属されて以来、他の編集部に異動することなく『ターザン』一筋。これまで550冊以上の編集に関わる。アウトドアと自転車を愛す。

●さかづめ・しんじ 1966年生まれ。パーソナルトレーナー。NSCA公認ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト。プロアスリートの他、後進トレーナーの指導にも尽力している。

●まきの・ひとし 1967年生まれ。フルマラソン完走請負人の異名を取る人気ランニングコーチ。アスレチックトレーナーとしての豊富な知識と経験を生かして、市民ランナーの指導を専門に行う。


〈Tarzan No. 700掲載〉
取材・文/井上健二 撮影/石原敦志