Nov23Thu

『永い言い訳』

2016.10.13

絶叫も号泣もないけど、切れ味鋭い西川美和作品。

チータ:『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』に続く西川美和監督の新作『永い言い訳』です。
ジェーン:小説家としても評価の高い才女ですね。この作品も映画の前にまず小説として発表されてます。
ターザン:才女なだけじゃなくて美女でもあるんだよね。天から二物を与えられちゃって、だから逆にこの人は褒めにくいって空気もあるんだけど。
チータ:素直に褒めればいいじゃないですか。
ターザン:いや、そりゃあ文句なく面白いですよ。
ジェーン:面白いって言うよりも、上質なドラマって感じかな。
ターザン:それが面白いってことだよ。西川作品の世界は派手なアクションやサスペンスじゃなくて、地味なヒューマンドラマではあるんだけど、その人生の機微の見せ方が芸術的、純文学的なとこへ行っちゃってるんじゃなくて、ちゃんと下世話で覗き見趣味的で、エンターテインメントになってるのがいいんだ。
チータ:今回は、妻をバス事故で亡くした男と、一緒に亡くなった妻の親友の遺族との間に交流が芽生えていくという話なんですが。
ターザン:これが「いい話」とか「癒やし」とかじゃないんだな。人間の痛い部分をチクチク突いてくる。

©2016「永い言い訳」製作委員会
©2016「永い言い訳」製作委員会

ジェーン:本木雅弘演じる主人公が、なかなかヒドい男なんです。
チータ:男はテレビのバラエティ番組にも出たりするような小説家で、マスコミは「愛する妻を失った悲劇の主人公」として盛り上げようとするんだけど、実は夫婦仲はとっくに壊れていて、本人は妻を全然愛してなかったと思ってる。
ジェーン:妻が事故に遭ってる最中、不倫相手を家に連れ込んでたっていう。
チータ:でも、悪い男が善人のふりして人を騙すっていう話でもないんですよね。聖人君子でもなく、極悪人でもなくて、普通にセコい男の話。善意と打算と自己防衛の間で“ゆれる”人間のドラマなんです。
ジェーン:考えてみれば、『ディア・ドクター』も『夢売るふたり』も、そういう話だったよね。
チータ:監督は自分自身を投影したと語ってるし、演じるモックンも自意識過剰な部分が自分に近いとコメントしてます。
ターザン:本木雅弘としては最高傑作じゃないかな。いい意味でどこかウソ臭いというか、いつも薄いバリアを張っているような雰囲気が、この役に自然にハマってると思う。
ジェーン:対照的に単純素朴な竹原ピストルもいいし、子役の2人も天才的。
チータ:子供たちの方が親たちよりも大人に見えるところも面白い。
ターザン:この映画が今年公開されるのはタイムリーだよね。
ジェーン:何で?
チータ:浮気男の話だからですね。
ターザン:うん、もしもこの主人公の事情を週刊誌が嗅ぎつけたとしたら、今の日本じゃ大炎上するわけだよね。
チータ:不倫は絶対許せないっていう個人の信条は自由だけど。不倫しただけで極悪人みたいに言われるのはやっぱりおかしい。
ジェーン:ま、後ろ指さされるのは仕方ないとしても、世間に謝らなければいけないことじゃないとは思う。
ターザン:モラルとルールは違うわけで。現代は姦通罪とかないんだから、善悪二元論で割り切っては語れない、それこそ「人生の機微」の問題じゃないの。
ジェーン:ま、だから映画や小説のネタになるわけよね。
ターザン:良くも悪くも人間臭いねって話じゃん。ベッキーだって、ファンキー加藤だって、文枝、円楽、橋之助だって、みんなみんな生きているんだ友達なんだ~。
ジェーン:いや、友達じゃないけど。
チータ:でもやっぱり、この映画を見て「主人公に共感できません。こんな男許せません」ってネットに書き込む人はいると思いますよ。
ターザン:そういう人は映画を見たりしないで、法改正運動でもおやりになればいかがでしょうか。

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ターザン
西川監督ならではの、常識に縛られず、情にも流されない、クールな人間喜劇。

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ジェーン
安易に子役を褒めたくないですが、この2人の子役は本当にスゴいですよ。

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チータ
「家族」を因数分解すると、親子と夫婦という異質の項の掛け合わせなんだなあ。


『永い言い訳』
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、妻が女友達と出かけた旅先で事故に遭い、亡くなったと知らせを受ける。妻の留守中に不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を演じるしかなかった。しかし、妻とともに亡くなった親友の遺族と出会い、彼らと関わっていくうちに、幸夫は人として、作家として、少しずつ変わり始めるのだった……。
監督/西川美和。出演/本木雅弘、竹原ピストル、深津絵里ほか。10月14日よりTOHOシネマズ新宿ほか全国公開。

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構成・文/黒住 光