Nov23Thu

銀座九丁目 猿人図書館

2016.11.20

回復る


読み/りかば・る。疲れたカラダやココロをニュートラル状態に復活させること。筋トレをしたら休まないと筋肥大しないように、人生にも回復期が必要なこと。


papyrus_YAMADA

猿人図書館司書 パピルス山田
グーグルマップにも載っていない謎の図書館の専属司書。利用者の要望に応えて本をコーディネイトする。説明に熱が入ると口調が変わり異様な早口に。


天高く馬肥ゆる秋のこの時期、ようこそ、猿人図書館へ。
おや、なんだかひどくお疲れのご様子。はぁ、肥えるほどの食欲なんかない? 運動する体力もない? 仕事する気力も湧かない? それはいけませんね〜。長い人生、ちょいちょい心身を回復させるブレイクタイムを入れていかないと〜。
もしかすると、無意識のうちに日々緊張していて、それで疲れているのかもしれないですね〜。そんなときにはこれ、まんまですが『緊張をとる』などいかがでしょう。

『緊張をとる』伊藤丈恭著、芸術新聞社刊、1,800円。 『〆切本』夏目漱石等90名著、左右社刊、2,300円。 『悪癖の科学 その隠れた効用をめぐる実験』リチャード・スティーヴンズ著、藤井留美訳、紀伊國屋書店刊、1,600円。
『緊張をとる』伊藤丈恭著、芸術新聞社刊、1,800円。
『〆切本』夏目漱石等90名著、左右社刊、2,300円。
『悪癖の科学 その隠れた効用をめぐる実験』リチャード・スティーヴンズ著、藤井留美訳、紀伊國屋書店刊、1,600円。

演技トレーナーの著者が緊張をとる演劇エクササイズの手ほどきをしながら脚本スタイルでストーリーを進めていくかなりユニークなメソッド本で勉強はできるけどめちゃめちゃ緊張しいでプレゼンがちっともうまくいかない広告代理店勤務の男が元天才舞台女優で大阪弁丸出しのスナックのママの弟子となり緊張を解きほぐす手だてをひとつずつ学んで身につけていくというビルディングストーリーにもなっている。緊張をとるのに自己暗示は効果がなく心は直接操作できないからめちゃくちゃな言葉や行動で理性を緩めて外面から誘導しつつ成功者の話はミスリードしやすいから鵜呑みにせずにものごとに取り組むときは失敗のイメージを持ち大きな目標のために小さな目標は捨てるといった演劇に留まらず人生に役立つ金言がこれでもかと登場して全部拾いながら読み進むのが難しいくら……。
いなんですけど、そうですか。普段からそんなに緊張してないと。では、ひょっとすると、あれやっちゃダメこれやっちゃダメと、無意識に自分で自分を縛りすぎているのでは? それで息切れしちゃってるのかもしれないですね〜。
そんな人には『悪癖の科学』、これが効くんじゃないでしょうか〜。
「悪態をつくことにより苦痛を緩和する研究」でイグ・ノーベル賞を受賞したイギリスの心理学講師が安全で健康な生活を送るために避けるべきリスクに潜んでいる科学的効用を学術的アプローチで考察するいかにもイグ・ノーベル的な一冊で自身の研究では悪態をつくと痛みへの耐性が高くなることや悪癖の代表格と捉えられがちな飲酒も過度な集中力を解いて創造力を高め人間関係を円満にし飲み過ぎ防止のための二日酔いというストップボタンが存在するから大丈夫で恋とは心の底から湧き上がる感情だと多くの人は思っているけれど実はアドレナリン分泌に伴う身体的反応に導かれているかもしれないと吊り橋を渡っているときに逆ナンパされた男性はその後誘ってきた女性に連絡をしてくる率が高いという吊り橋理論を引き合いに出したと思ったら恋をすると血液中の神経成長因子の濃度が高まるというメリットを語り他にもセックスやスピード運転やストレスなど世間が眉をひそめるような悪癖も心理学的に考えれば人生のスパイスにもなり心身の健康にひと役買ってくれることもあると説く。
心配しなくても、全然自戒なんてしていない? 大酒飲みだしスピード違反もするし罵詈雑言もしょっちゅう、ですか〜。う〜ん。では、もうこれしかないですね。最終兵器は『〆切本』です。
格調高い美文を操る文豪から気鋭のエンターテインメント作家まで9割9分の作家たちは〆切というものの存在に怯え憎む一方でモチベーションのよすがとしている。素晴らしくバカバカしいのは名文筆家の呼び声高い内田百閒先生で年越しの物入りで借金するのが嫌だからまだ書いてもいない原稿料を当て込んで原稿を書き出したはいいけれどガス煖炉を焚いていて頭が痛くなったから近所の電気屋から電気煖炉を買ってきてつけてみたら鼻の穴や眼がばさばさに乾いてきたので電気煖炉を消してまたガス煖炉をつけてと煖炉の調節に一生懸命になっているうち結局〆切には間に合わずしようがないから妻のコートを質に出して車を雇い借金活動に出かけていき《やっぱり原稿を書いたりなんかするよりは、こういう活動の方が、晴れ晴れとしていて、私の性に合うと思った》とか言う始末。
《かんにんしてくれ給へ》だの《私の頭脳は完全にカラッポになってしまったのです》だの《書けなかった場合は、オレは干される。どうすればいいんだ》だの、マイナスオーラの愚痴がてんこ盛りです。辛いのは自分だけじゃないと逆に元気がもらえますよ〜。ああ、カバーに書かれた引用文でもう涙ぐんでますね。お気に召してよかったです〜。

Tarzan No.707 「休む」の科学 掲載 〉
推薦・文/パピルス山田 撮影/新井孝明 イラストレーション/東海林巨樹