Dec10Mon

穂積絵莉(テニスプレーヤー)インタビュー「優勝をここまで近く感じることは、今までなかった」

2018.08.31

今年、全仏オープンのセンターコートに日本人ペアが立った。
穂積絵莉は、東京オリンピックでの金メダルを目指し、日々戦っている。

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今年、6月に開催された全仏オープンの女子ダブルスで、日本人ペアとして初めて決勝へと駒を進めたのが、穂積絵莉と二宮真琴である。今では“えりまこ”と呼ばれ、人気の彼女たちだが、実はこの大会でペアを組む予定ではなかった。二宮と組むはずだった選手が出場できなくなり、急遽、穂積に打診が来たのだ。ただ、組んだのは初めてではないので、2人は心配はしていなかったようだ。穂積は語る。

「私はハードコートが一番好きなんですが、(全仏オープンの)クレーコートも嫌いじゃないんです。日本人選手はクレーが苦手といわれていますが、シングルスだったら、ボールが跳ねるこのコートは好きです。ただダブルスでは、速いテンポで展開して、相手の時間を消すような戦い方が私は得意なんですが、クレーコートだと(球速が落ちて)、速いテンポに持っていくのが難しい。勝てるイメージがあまりなかったんですね。真琴(二宮)も同じように思っていたんです。だから、今回は勝つことを意識しないようにした。1回戦から自分たちのやることを明確にして、自分たちの武器を生かそう、そうすれば、結果がついてくるというような気持ちで臨みました。それがよかったのかもしれないですね」

2人はノーシードから勝ち上がり、準々決勝では、第1シードのクリスティーナ・ムラデノビッチ(フランス)/ティメア・バボス(ハンガリー)と激突。第1セット第1ゲームでブレークに成功するも、第2ゲームではブレークバックを許してしまう。そして、3回のセットポイントを凌ぎ、タイブレークで第1セットを奪取した。第2セットに入ると、第1シードの相手にミスが目立ち始め、6-3で準決勝進出を決めた。
「相手はそれぞれシングルスでもトップでやっている選手。だから、サーブもストロークもボレーも、全部のショットの精度が高くて、個々の力では負けている部分も多かったと思います。ただ、私たちはしっかり話し合って、コミュニケーションがとれたというのが大きかった。“今、押されているから、こういう作戦で行こうか”なんていうふうに、2人で組み立てていけた。それが、勝因だったと考えています。第1ゲームで3回のセットポイントを凌いだこともよかった。相手にとっては、かなりのダメージでしょうからね」

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準決勝は第8シードのチャン・ハオチン(台湾)/ヤン・ザオシャン(中国)。穂積はダブルスで、これまでチャンと3回当たっていて、3回とも敗れている。リベンジしたいと臨んだのであろうが、果たして6-2、6-2というスコアで、見事な勝利をつかんだのである。
「あの試合は終わってみたら、簡単なスコアで勝っていて、ちょっとビックリでしたね。真琴のロブもすごく効いていたし、ブレークされそうな場面もあったけれど、そこで踏ん張れたのも大きかったです」

そして、決勝は第6シードのボルボラ・クレチコバ/カテリナ・シニアコバ(ともにチェコ)。センターコートのフィリップ・シャトリエコートに、日本人のペアが立ったのである。しかし、3-6、3-6というスコア。初優勝はならなかった。
「もちろん勝ちたかったです。けど、私たちのプレイ自体、決勝が一番上手くいかなくて。立ち上がりにブレークしていい感じかなと思ったのですが、普段とは違うポイントの落とし方やミスをしちゃうし、私のストロークも走っていなかった。それまでの試合がほぼ完璧だったので、残念でしたね。相手のペースがゆったりとしていて、速いテンポの展開ができなかったのも大きかったです。終わったときは悔しかったけど、みんなに頑張ったねと言われて徐々によかったな、と思いました。今は、次に決勝へ行ったら、必ず勝ちたいという気持ちが強いです」

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全豪オープンに行って、戻ってきたいと思った。

初めてラケットを握ったのは3歳のとき。家族がテニス好きで、みんながプレイする横で、ラケットを振っていたらしい。本格的に始めたのは神奈川県の茅ヶ崎にあるパーム・インターナショナル・テニス・アカデミーに入ってから。8歳だった。

「最初に正式な大会に出場したのが、小学校4年生のときでした。ポイントの数え方もあんまり分かっていなくて0-6、0-6の惨敗。母と祖母が見に来ていたのですが、祖母が“あんな負け方でかわいそう。もうやめさせなさい”と母に言ったらしいんです。ところが私は満面の笑みで“ホント、楽しかった!”ってケロッとしていたみたい。そのころは、ただ打つのが面白かったんですね」

12歳のときに全日本ジュニアのシングルスに出場し、優勝する。ただ、自分がトップ選手だとは思っていなかった。なぜなら、それまでは全国レベルの大会に出場したことはなかったし、中学でも全国中学校体育大会には1回出場したが、2回戦敗退。それほど目立った選手ではなかったのだ。ところが転機が訪れる。

「高校1年生のときに、全豪オープンのジュニアに出場できることになったんです。バスで試合に向かったのですが、車窓から会場を見ただけで、鳥肌が立ちました。こんなにすごいんだ、って。中に入ると、これがまた今まで自分が出場した大会とは、何から何まで違っていたんです。飲み物もタオルも揃っているし、ボールを自分で拾わなくてもいい。審判はマイクでしゃべるし、お客さんが大勢見てくれていて、本当に興奮しました。それで、シニアになっても戻ってきたいと思ったんです」

高校は地元の湘南工科大学附属高校だった。だが、全豪オープンの出場がきっかけで、転校を決意する。高体連(全国高等学校体育連盟)には、一つの決まりがある。それが45日ルールである。日本テニス協会主催の遠征以外で、個人的に45日以上の海外遠征を行うと、高体連の試合、つまり選抜大会やインターハイには出場ができないというものだ。「そのころ私はITFジュニアという、グランドスラムジュニアに繋がるツアーで海外を回っていたんです。でも、45日以上になってしまうと高体連の大会に出られなくなる。湘工(湘南工科大学附属高校)にいると、インターハイには出なければいけない。だから、2年になるときに鹿島学園(高等学校)の藤沢校に転入して、通信制で学びながら世界を転戦するようになったのです」
基本的にはパーム・インターナショナル・テニス・アカデミーで練習し、海外遠征に向かうという生活。このアカデミーでの練習は、かなりキツかったようだ。技術的な練習のほか、ランニングやインターバルトレーニングなど、体力を培うことに重きが置かれていたのだ。穂積のパワフルなショットや、スタミナの素地はここで作られたのであろう。

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「私があまりにも毎日練習に行くので、コーチから“今日は帰れ、休むのも練習だ”って追い返されたこともありました。確かに、キツかったのですが、それ以上にテニスをすることが楽しかったんです。よく考えてみたら、今までずっとテニスを楽しんできました。イヤになったことなんて、一度もありませんから」

そして、このころ初めてプロの選手たちと顔を合わせる。Gプロジェクトという選手強化プロジェクトにジュニアとして参加し、奈良くるみ、土居美咲などのトッププロと一緒に練習することになったのだ。

「ジュニアの仲間とやっていたときは、楽しくわいわい練習していたんです。でも、プロの選手と合宿をするようになって、彼女たちの練習のときの緊張感が全然違うのを感じました。私は、高校を卒業してプロになったのですが、最初のころはジュニアの延長線みたいでした。ただ、コーチのアドバイスをもらったり、試合を経験していくなかで、少しずつプロとしての自覚が生まれてきて、仕事として練習にも取り組めるようになっていったんです」

アジア大会で優勝すれば、オリンピックが近くなる。

現在、穂積には2人のコーチがついている。1人がイギリス人で、もう1人が現役時代はグランドスラムを沸かせた、杉山愛さんである。しかし、この2人は練習時間のすべてで、指導してくれるわけではない。だから、コーチと方向性を話したうえで、穂積自らが具体的な練習方法を考えて、実践しているのである。
「たとえば、今年6月に行われたウィンブルドンのときに、自分の修正点とか、これからどうするかということをコーチと話し合いました。そして、今はそれに沿った練習を、パートナーの人に説明しながら行っています。今日は、相手に左右に打ち分けてもらって、それを打ち返すトレーニングもしたんですが、このときに脈も測りました。たまに測って、自分の目安を知っておくんですね。疲れていると上がりやすいとか、走れているときは意外と大丈夫、とか。でも、自分はもともと上がりやすくて、190拍/分ぐらいまで上がってしまうこともあるんですよ」

コートでの練習以外に、昨年末からは筋力トレーニングも始めた。
「スクワット、ベンチプレス、デッドリフトなど一般的なトレーニングに、体幹トレをやったりしています。始めて8か月ぐらいなのですが、筋量が増えましたね。実際、プレイしていても力強くなったというか、ボールに力を伝えやすくなったと思います。見ている人にも“パワーついたね”って言われて、周りが感じるなら、本当に変わったんだなと実感することができました」

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テニスプレイヤーにとって、グランドスラムでの優勝は夢であり、大きな憧れでもある。穂積は今年、その夢をつかみかけた。そして、彼女にはもうひとつ目標がある。日本で開催される東京オリンピックだ。
「もうすぐアジア大会(8月19日から)があるので、必ず優勝したいです。そうすれば、オリンピックがグッと近くなります。シングルスはまだ100位以内にもなっていないので、それより上を目指したい。ダブルスは全仏で準優勝したので、全米オープンでも上位を狙っていきます。ツアーでの実績を積み重ねれば、オリンピックでの優勝も見えてくるのかなと思います。優勝をここまで近く感じることは今までなかったので、ぜひ金メダルを獲りたいですね」


●ほずみ・えり 1994年生まれ。168cm、60kg。2006年、全日本ジュニア女子シングルスで優勝。11年、全豪オープンジュニア女子ダブルスで準優勝。12年、プロに転向。13年、全日本選手権で優勝。17年、全豪オープン女子ダブルスでベスト4。今年、全仏オープンで同じく準優勝。


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取材・文/鈴木一朗 撮影/藤尾真琴