Sep20Thu

渡辺勇大・東野有紗(バドミントン選手)インタビュー「やってきたことに間違いはない。結果がついてくるのを待つだけ」

2018.07.06

中学校で偶然出会った2人は、混合ダブルスで大輪の花を咲かせた。
そして、2年後の東京オリンピックで優勝するために、日々戦っている。

01

今年、3月に英国のバーミンガムで行われたバドミントンの全英オープン。混合ダブルスで、見事、優勝を飾ったのが渡辺勇大と東野有紗のペアである。この種目では日本勢として初の快挙であった。全英オープンは2度の世界大戦による中断を挟んで、108回という歴史がある大会で、1977年に世界選手権が開催されるまでは、実質上の世界大会とされていた。この歴史があるからこそ、毎年、アリーナ・バーミンガム(大会会場)は、独特の雰囲気に包まれる。渡辺が語る。

「あそこは特別なんです。いいアリーナですし、お客さんも温かいし、数も多い。イギリス人だからとか、日本人だからとか、そういうことは関係なく声援を送ってくれました」

article_20180706_744_here-comes-tarzan_img1

「歴史のある大会なので、バドミントンをよく知っている人が多いんだと思います。いいプレイをすると拍手をしてくれたり。他の大会とはまったく違うんですよね」(東野)

article_20180706_744_here-comes-tarzan_img2

大会では1回戦から、実にスリリングな展開になった。混合ダブルスは21ポイント3ゲーム制で行われるのだが、初戦の香港チームとの対戦は、先に1ゲームを取られ、2ゲーム目も17-11まで追いつめられ、そこからの逆転劇となったのだ。
「決勝までの相手の中で一番力があるチームだったと思いますね。とにかく、強い。2ゲーム目で離されたときは、後がないから、思い切っていくだけだと思いました」(渡辺)

2回戦、3回戦、準決勝と苦しい戦いを強いられるも、どうにか勝ちを拾って決勝へ。相手は中国ペア。以前、一度対戦したことがあり、そのときは「ボコボコにされた」(東野)と言う。試合は1ゲーム目、相手に奪われる。そして、2ゲーム目では序盤にリードをしたが、追いつかれてデュースに。しかし、振り切ってゲームを奪う。これが非常に大きかった。そして3ゲーム目は終始リードを保ち、勝利したのである。

「1ゲーム目を落として、メチャクチャ強いなと思いましたね。初めての決勝ということで硬くなっていたのもあります。1ゲームが終わったあとは、スペースをよく見て攻撃しようと話し合いました。2ゲーム目も、20-19になったときは、ほぼ負けていたんですけど、点差を考えずフラットな気持ちでいこう、と切り替えたのがよかったですね」(渡辺)

「2ゲーム目は積極的にプレイすることにして、それがよかったのか3ゲーム目は相手が引いてくれた。引くとスペースができて、戦いやすくなる。最後まで気を抜けなかったけど、勝つことができて本当にうれしかった。今まで見たことのない、全然違う景色を見ることができて、すごく気持ちよかったです」(東野)

article_20180706_744_here-comes-tarzan_img6

中学時代に組んで今年、8年目のペア。

渡辺は7歳、東野は6歳でバドミントンを始める。初めてラケットを握ったときのことも覚えていて、渡辺は「最初からシャトルが当たって楽しかった」と言う。反対に東野は「全然当たんなくて、ずっとつまらないと思っていた」し、親が陸上をやっていたので、自分もその道に進むと考えていた。実際、小学校3年生のときに陸上も始めるが、走るだけの練習はつまらないので、すぐやめてしまった。小学校では2人ともバドミントンを続け、実力をつけていく。そして、バドミントンの名門・福島県の富岡第一中学に入学するのだ。東野がまず入学して、1年後に渡辺が門をくぐった。運命的な出会いである。

「自分から行くとは言ってないと思う。父が富岡の先生と友達だったからですね。中学校から寮に入るのは、メチャクチャしんどかったですね。家に帰りたかった。小学校のときには週2回だった練習も、中学では朝練つきの毎日練習……」(渡辺)

「鬼だったよね、アレは。ホント、キツかったです。ただ、私の場合は北海道から母が来てくれていたので、寮ではなかった。だから、みんなよりはマシだったんです」(東野)

初めてペアを組んだのは、東野が中学校3年生、渡辺が2年のとき。それまでは、女子ダブルス、男子ダブルスをやっていた。ほとんど話したことがなかった2人は、富岡一中でインドネシアへ遠征したとき、即席で混合ダブルスの試合に出場し、いきなり3位に入ってしまうのである。卒業後は2人とも、富岡高校に進学する。そこには中学時代の先輩がズラリと待っていた。そして東野が入学したときには、3年生に現在の日本のエース・桃田賢斗がいた。
「もう、凄すぎましたよ。女子の先輩たちもレベルが高かったから、ついていけるか不安でした。みんな強いので、“私って弱いなぁ”ってずっと思っていましたね」(東野)

「高校の先輩はカラダが出来上がってきていましたから、パワーの差はありましたね。こっちは中学を卒業したばかりですし、ガンガン押されてしまうと、やはり埋められない差を感じてしまいましたね」(渡辺)

article_20180706_744_here-comes-tarzan_img4

先輩との差を徐々に埋めていく2人。そして、東野が3年生のときに、世界ジュニア大会の混合ダブルスで3位に入るのである。高校を卒業すると東野は、こちらもバドミントンの名門・日本ユニシスに入社する。ここからが微笑ましい話なのだが、東野がことあるごとに渡辺にLINEで連絡するようになったのである。しかし、ただの近況報告ではない。

「日本ユニシスに入ってください、って送っていたんです。高校のときに組んでいるときから、パートナーはユウタ君がいいなと思っていました。それに、東京オリンピックを本当に目指したいと考えたときに、彼が必要だと考えたんです」(東野)

「誘ってもらってありがたかったんですが、僕自身は誘われたからというよりは、自分が成長できる場所はどこかというのを考えて、日本ユニシスを選んだんです」(渡辺)

ただ、入社してからも混合ダブルスを練習する機会はなかなかなかった。渡辺は男子ダブルスと混合ダブルスの両方で結果を残したいと思っていたので(実際、今年の全英オープンでは男子ダブルスで3位に入っている)、混合ダブルスの練習が少なくてもそれほど不満ではなかった。だが、東野は混合ダブルスへの想いが強く、もっと練習できればと考えていたようなのだ。

article_20180706_744_here-comes-tarzan_img7

合宿でのトレーニングは、とにかく半端なくキツい。

そもそも、日本のバドミントンは、これまでの日本代表もそうなのだが、男女別々に練習を行ってきた。混合ダブルスを軽視したわけではないだろうが、結果的に男子、女子のシングルスおよびダブルスは、メダルをしっかり獲得できる実力をつけたのに、混合ダブルスはなかなか世界で勝つことができなかったのである。

しかし、今年1月に大きな変化が起きる。日本バドミントン協会が混合ダブルスの強化のためにマレーシア人のジェリミー・ガン氏を招聘したのである。彼は強豪国であるマレーシアの男子ダブルスや混合ダブルスのコーチを務め、リオデジャネイロ・オリンピックでの銀メダル獲得にも貢献している。そして、もちろんこのことが2人に大きく影響し、今回の優勝にも繋がったのだ。

「ジェリミーさんは僕が言うのも何なんですが、すごく頭のいい方なんです。教えられたのは、自分のやりたいことがすべてではないということ。相手の状況とか、自分の状態を含めたうえで戦えと言われました。相手のスペースを上手く使ったり、自分の頭でプランを立てて、ただやりたいことをやるのではなく、相手の嫌がることをやっていこう、というような指導を受けました。常に全力ではなく、力を抜けるときに抜けば、体力も温存できる、と。それまでの僕らは、実はノリと勢いだけでやっていましたから(笑)」(渡辺)

「基本的には私たちのスタイルを認めて維持できるように考えてくれています。そして、プラスαでいろんなことを教えてもらっていますから、素直に吸収できるんです。教えられてからは、個人のプランではなく、ペアとしてのプランもしっかり話し合えるようになりました」(東野)

現在2人はバドミントン日本代表の過密なスケジュールのなか、日本ユニシスチームの練習、日本代表合宿と試合をこなしている。月のうちに1週間が合宿で、その後の2週間で2大会に出場するといった具合なのだ。しかし、代表合宿であれば、混合ダブルスの練習を多く行えるようになるし、ジェリミーコーチの存在も大きい。2人にとっては非常にハードだが、まさしく充実した時間になっている。

「合宿はとにかく半端なくキツい。スケジュールが決まっていて、そのなかにはウェイトなどのフィジカルトレーニングも多いです」(渡辺)

「私にとって、いちばん辛いのは、インターバルトレーニングですね。コートのまわりを8周走って、レストを入れて7〜8セット。鬼です。ただ、合宿をやることで、フィジカルもメンタルも確実に強くなってきていると思います。あと、ジェリミーさんが来てから、男子のダブルスと練習する機会も増えてきました。男子には申し訳ないんですけど(バドミントンは男子と女子とでは、パワー、スピードが圧倒的に違う。つまり男子には女子との練習は物足りなく感じる)、彼らの球を受けるようになって、技術もかなり上がってきたと思っています」(東野)

article_20180706_744_here-comes-tarzan_img5

合宿と試合、これから東京オリンピックまで、ずっと彼らの戦いは続いていく。そして、あと2年と少し経てば、いよいよ本番の夏が訪れる。

「まずは8月、南京で行われる世界選手権で結果を出したい。そして来年からポイント制のオリンピックレースが始まるので、ランキングを上げて、それを維持して出場権をつかみたいですね。そのうえで、本番では金メダルを獲れればベストだと思っています」(東野)

「これまでやってきたこと自体は、間違っていないし、自信があります。ただ、残念なことにオリンピックのラインには乗れていない。だから、あとは自然に結果がついてくるのを待つだけですね。どれだけ劣勢でも、全英のように逆転、逆転というのがあるので、最後まで自分たちのやるべきことをやっていけば、金メダルは近いと思っています」(渡辺)


●わたなべ・ゆうた 1997年生まれ。167cm、56kg、体脂肪率11%。福島県の富岡高校から日本ユニシスへ。2016年、中国マスターズの混合ダブルスで3位。同年のベトナムインターナショナルチャレンジで優勝。17年、全英オープンで3位。18年、全英オープンで優勝。同大会の男子ダブルスでは、遠藤大由と組んで3位に入る。

●ひがしの・ありさ 1996年生まれ。160cm。2015年、日本ランキングサーキット大会の混合ダブルスで優勝。同年の全日本総合選手権大会で3位。16年、日本ランキングサーキット大会で優勝。同年、全日本社会人大会で優勝。同大会の女子ダブルスは栗原文音と組んで3位。17年、全日本総合選手権大会で優勝。


Tarzan No. 744 やり遂げる! 掲載 〉
取材・文/鈴木一朗 撮影/藤尾真琴