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ミカサ [バレーボール球]

2017.04.13

オリンピック公式試合球。

畏れ多くもテレビさまが床の間に置かれていた時代、世の人気や流行は視聴率なる数字で判断された。特別番組の分野で56.5%という、驚愕の視聴率を誇るのが1966年『ザ・ビートルズ日本公演』。羽田空港から赤坂まで、サイレンを鳴らすパトカーに取り囲まれ、夜明けの首都高速をひた走る4人の乗った大きなキャディラック。そのシーンにかぶってジョンの『ミスター・ムーンライト』が大音量で流れ出す。この出だしに日本中がしびれまくった。

上には上があるもので、ビートルズを超えるのが64年の『東京オリンピック女子バレーボール日本ソ連決勝』。なんと66.8%、スポーツ中継では堂々の歴代1位だ。
世界のトップに立つ日本人アスリートは少なくないが、チームということでは、それも長期間にわたって頂点に立ち続けたということでは、彼女たちがダントツ。

女子バレーボールチーム、日紡貝塚がそれである。54年に大日本紡績の代表チームとして結成され、監督は大松博文。鬼の大松と言われるくらいの猛練習に耐え応え、59年11月の朝日生命戦から空前絶後の258連勝。海外遠征による欧州の強豪との戦いも含め、66年8月のヤシカ戦まで国内国外で7年間勝ちっ放し、ただのひとつの負けもなし。金字塔という言葉は彼女たちのためにある。

とにかく強いのなんの。61年の欧州遠征では22戦を快進撃する際に(それまで世界最強のソ連に6戦6勝しちゃうのだ)、あまりの強さに「東洋の魔女」と呼ばれる。鬼が鍛えた魔女だもの、弱いわけがない。62年モスクワの世界選手権には、日紡貝塚の選手だけで日本代表となって出場、事前の親善試合から大会予選からすべてを勝ち進み、宿敵ソ連をも下して完全優勝、世界を制覇する。

そしてくだんの64年東京オリンピック。女子バレーボールが正式種目に選定された初めての大会。鬼の率いる魔女たちを主体とした日本代表(日紡貝塚10名、他所属2名)は予選から全勝のままに決勝へ。同じく全勝のソ連から優位に試合を進めて15―11、15―8と2セットを取るも、3セット目になって、さすがソ連は粘り強さを見せてマッチポイントの嵐。

日本まるごとハラハラドキドキ、TVに釘付け、手に汗を握るとはまさにこのこと、瞬間視聴率は85%にも跳ね上がったそうな。最後の最後は14―13のマッチポイント、ソ連選手のオーバーネット(反則)で日本優勝、駒沢の屋内球技場にみんごと日の丸を掲げることになる。魔女たちはメダルを胸に泣き、それを見つめる鬼が泣いた。日本中が泣いた。魔女たちの連勝記録はあと2年続く。

ミカサ
国際大会で使われるミカサのトップモデル、バレーボール国際公認球 検定球5号《MVA200》。9,000円。国内リーグでも使われている。

この東京五輪でバレーボール公式試合球に選ばれたのが〈ミカサ〉のボールである。

ミカサは創業1917年、広島に本拠を置き、工業用そしてスポーツ用ゴム製品を作っている。スポーツ用とはすなわち球技で使われるボールのこと、古くから学校体育用のドッジボールを作っていた。終戦後、当時広島で盛んだったバレーボール球を手がけるようになり、のちには前述の通り、東京オリンピックの公式試合球に選ばれるまでになっている。

69年に国際バレーボール連盟(FIVB)から国際大会公式試合球として認定され、また80年モスクワ五輪以降、すべての大会で唯一の公認球として採用され続けている。オリンピックはもとより国際大会で使われるボールは、FIVBの定めた規格に沿っていなければならないが、その厳格な基準をクリアした高品質なボールを常に安定して大量に生産できることがミカサの強みだ。
FIVBの定めたインドア用ボールの規定は、周囲65〜67cm、重量260〜280g、内圧0.3〜0.325kgf/cm2、リバウンド性は1mの高さから落として60〜66cm(20℃)、と実に厳密。

そのミカサのボールの製造工程はこんなふう。まずは精錬されたゴムシートを釜に入れて160℃に加熱、チューブと称されるゴムの球体を作る。出来上がった厚み1mmほどの精密な球体に、髪の毛より細いナイロン糸を3000mほど、まんべんなく巻きつけてゆく。
これで弾み、硬さ、耐久性が決まる。巻き上げると厚みはおよそ1.5mm。これに、熟練スタッフがひとつひとつ人工皮革のカラーパネルを貼りつけ、そして仕上げ処理を行って完成。これらすべての工程は上記の基準をクリアするために厳密な管理の下にある。

そうだ、カラーボールはミカサが最初。白・青・黄の3色ボールが98年にFIVBの公式試合球に認定され、視認性のよさであっという間にカラーボールは当たり前になってしまう。2008年北京大会からはお馴染みの2色、青・黄のボールだ。パネルのデザインもミカサのオリジナルである。

実はそのカラーの人工皮革の表面パネルには小さな凹みがなされ(シボ加工)、凹み以外の平らなところにはさらに小さな凹みが設けてある。この二重シボ加工により、クッション性が高まり、指先や腕にかかる衝撃が少ない。また摩擦係数が上がるためボールに回転をかけやすいのだ。
さらにカラーパネルには目に見えないくらい細かなナノ・シリカ微粒子が吹きつけられていて、滑り止め効果を高めている。汗に濡れた手でも滑りにくいのだ、そう、ミスをボールのせいにはできない。このミカサ、世界150か国以上で使われている。




Artwork for [MIKASA]

MIKASA

この意匠表現は『ターザン』が独自に創作したもので、記事中で紹介される組織、商標、商品を広告宣伝するものではありません。


Tarzan No.716 運動不足に効く特集。 掲載〉
構成・文/内坂庸夫 撮影/山城健朗 イラストレーション/師岡とおる