Aug24Thu

極限の集中力!? ゾーン研究最前線

2017.06.13

ゾーンは誰もが簡単に入れる魔法ではない。だけど、トレーニングを経て、入れる確率は上がるのだ!

打撃の神様と呼ばれた川上哲治は「ピッチャーが投げたボールが止まって見えた」と表現し、スピードスケートの清水宏保は「スタートラインに立った時、周囲の音が消え自分の滑るコースが光って見えた」とコメントした。これらはいわゆるゾーンの状態。極限の集中状態だ。

具体的な例を挙げたのは、ゾーンの感じ方は人それぞれであり、“これ”という定義ができないため。
「ゾーンを体験したことがある選手にその時の状況を聞くと、返ってくる答えは十人十色。共通しているのは、楽しい、リラックスしている、自信に満ちているなど、ポジティブな感覚であることのみ。これを科学的に分析し、選手がパフォーマンスを発揮しやすい状況を作り出すのがメンタルトレーニングです」(東海大学・高妻容一先生)

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ゾーンに入る条件は選手それぞれ。
リラックスしている方が力を発揮できる選手もいれば、気持ちを高揚させた方が発揮しやすい選手もいる。人によってゾーンに入る条件は異なる。

定義が難しいゾーンだが、どのような条件が揃うと入りやすくなるか、ということは過去の研究からわかっている。それが、「強いストレスを感じ、一気にリラックスした時」だ。ストレスが多すぎてもパフォーマンスは発揮できないし、逆にリラックスしすぎても力が抜けてしまう。緊張とリラックスがどちらも高い状態、それがゾーンである。
この時脳波は、リラックスに近い状態の高シータ波と集中力や記憶力は上がっている高アルファ波が同時に出ているというのが最近の説。

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4つに分けられるヒトの脳波。
リラックス状態の時に出るのがアルファ波、やや緊張・興奮状態のベータ波、まどろんだ状態のシータ派。そして無意識の状態であるデルタ波。

「ゾーンの時は大局よりも目の前の情報を分析するベータ波が出ていないので、理性が落ちている状態とも言えます。理性とは森よりも木を見ている状態なので、ゾーン時は物事を俯瞰で捉えられている。視野が広がり、実際にひらめきやアイデアが生まれることも多いです」(予防医学博士・石川善樹さん)

クリエイティブなアイデア。これはぜひともビジネスに活かしたい。実際にゾーンは一流のスポーツ選手だけが入るものではなく、その道を極めた人であれば誰でも体感できる。さらに言えば、“軽いゾーン”は日常でも作り出せる。仕事に没頭するあまり数時間があっという間に過ぎた、なんて誰もが経験ある状態も実はゾーンである。

ゾーン状態を作り仕事の効率化を図りたければ、押さえておくべきポイントは2つ。まず、志を高く持つこと。上司をうならせるような企画を考えて、自分が責任を持ってやり遂げるなどだ。もう一つが、ゆとりとゆらぎを持つこと。多くの人は忙しさのあまり「自分はなぜこれを目指しているのか」と日々の生活を振り返るゆとりがない。ひらめきを生むには、違う環境にいる人からの刺激(ゆらぎ)をもらうことも大切だ。目の前の仕事から少し離れると、やるべきことが見えてくる。



プロと呼ばれる人たちのゾーン体験から、集中力を高めるヒントを得よう。

松田丈志(水泳選手)
「とにかくカラダが軽く、飛んでいるように泳げる。記憶もあまりありません。」

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元水泳日本代表。2008年北京オリンピックでは200mバタフライで銅メダル。12年のロンドンでは200mバタフライで銅、400mメドレーリレーで銀メダルを手にした。

北京オリンピック準決勝後、「明日の決勝では絶対にメダルを獲れる」と確信していました。それぐらい感覚がよく、実際に決勝で泳いだらやっぱりカラダが軽い。金メダルを狙って変に力まなかったのもよかったのかもしれません。その時の泳ぎを一言で表現するなら、飛んでいるような感覚。それをもう一度味わいたいという想いをモチベーションに、4年後に向けて練習を積みました。

そして迎えたロンドン・オリンピック。あれは確実にゾーンに入っていた、と言えるのが400mメドレーリレー。いざスタート台に上がると、北島康介選手がこちらに向かって必死に泳いでくるのが見えた。俺もやらなきゃという気持ちでプールに飛び込み、そこから記憶がないんです。まさに無我夢中。気付いたらプールから上がって自分のコースに戻り、会場全体を見ていた。その瞬間我に返りました。結果は銀メダル。個人でも51.2秒と、マイケル・フェルプスに次ぐ2番目に速いタイムで泳ぎ切ることができました。

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©長田洋平/アフロスポーツ

本番で冷静さを保つために心掛けていたのは、自分の力を出し切ることだけに集中すること。特に水泳は自分との勝負なので、レース前に挑発されてもライバルに勝ちたい、何秒台を出したいなどは思わないようにしていた。僕は幼い頃から自分と向き合う機会が多く、どんな時にやる気が出るのか、落ち込むのか、どうすれば気持ちを早く立て直せるのかなどをいつも考えていたんです。その習慣が大人になった今も染みついているのかもしれません。


『Tarzan』720号では、リーチ・マイケル(ラグビー選手)、渡辺明(棋士)、有森裕子(元マラソン選手)、室屋義秀(エアレースパイロット)のゾーン体験と、ゾーンを作るための具体的なステップを紹介。


Tarzan No.720 「怒り」学 掲載 〉
取材・文/黒澤祐美 撮影/小川朋央 取材協力/高妻容一(東海大学体育学部競技スポーツ学科教授)、石川善樹(campus for H)