Apr25Tue

腰の痛み&悩みは一生もの。 ほぐす、鍛える、なだめるがコツ。

2017.01.29

長年腰痛を患う達人は、どのように腰と向き合っているのか。その対処法をうかがった。

hideyuki NOZAWA
野沢秀行さん(サザンオールスターズ パーカッショニスト)
●のざわ・ひでゆき 1954年生まれ。サザンオールスターズのパーカッショニストとして1978年デビュー以来、数々のヒット曲を生み出す。著書で自身の腰痛体験を初めて公表した。


腰痛を治そうとしない。大事なのは付き合い方。

いつ再び爆発するかわからない腰痛を抱えるという、その心境は如何ばかりか。サザンオールスターズのパーカッショニストとしてバンドを支える野沢秀行(通称“毛ガニ”)さんは、30年以上という筋金入りの腰痛持ち。このほど、長年の腰痛体験を著書『腰痛に負けない体を無理せずつくる!! 毛ガニの腰伝説』(KADOKAWA)に記した。
「僕の場合、朝、目覚めたときの腰の状態によってその日の過ごし方を考え、余裕があればストレッチなどの時間を作るし、疲れが溜まっているな、と感じたらなるべくじっとしている。言うなれば僕の生活のすべてが腰痛対策なんです」
野沢さんが最初に腰痛を発症したのは31歳、1986年のこと。突如椎間板ヘルニアに襲われて入院し、一旦症状が治まり退院するも、1か月後に再発して再入院。手術して今度は大丈夫と思いきや96年に再び激しい痛みに襲われてツアー不参加という苦汁をなめる。さらにその後、2003年にも再発しているのだ。
こうして野沢さんの腰痛遍歴を書き連ねるだけでもその辛さが想像できるが、03年の再発時、野沢さんは医師との相談のうえ、手術をしない決断を下し、再びツアーを休んで「自宅でひたすらじっとする」自然治癒の方法を選んだ。そうして1か月半後、突然腰の痛みはピタリと治まる。それからの十数年間は幸いにも激しい痛みには襲われていないものの、野沢さんは自分の腰痛が治ったとは思っていない。
「最初の椎間板ヘルニアのときから、激痛に襲われるたびに腰を治そう、治そうとあがいては再発を繰り返してきた。で、03年に何度目かの再発をしたときに、これは同じように手術をしても意味がないんじゃないかと思ったんです。その結果行きついたのが、無理に治そうとせず、腰痛とうまく付き合いながら再発させずに生きていくのが自分にとって最善の方法であるという考えでした」
野沢さんはトレーナーと二人三脚でウォーキングやストレッチの計画を立てたり、筋電図でデータを取りながらコンガを演奏してフォームの欠点を洗い出したり、ツアーが決まったらその日程から逆算して筋トレを行い、3時間以上に及ぶ長丁場のライブに耐えるべく心肺機能を向上させていった。筋力と柔軟性、持久力を高めつつ、カラダの使い方を根本から見直すことで腰に負担をかけずにパワフルな演奏ができるようカラダを作り直したのだ。
生活も腰中心に考えるようになった。普通、腰が悪いと家の中をバリアフリーに造り替えたりするが、野沢さんはあえて動線上に物を置くなどして「バリアフル」にするよう心がけている。理由は物を避けようとカラダを捻ったり、足を上げることがトレーニングになるからだ。

腰痛には理由がある。不安に駆られるよりも原因を分析して対処する方が前向きになれる。

「発症以来、今まで何人もの医師や施術師に診ていただきましたが、腰痛ほど痛みの度合いや発症のタイミングが人によって異なる疾患はないと思うんです。対処法もさまざまだし、治る人もいれば治らない人もいる。必ず治る治療法はありません。だから、自分にとってベストの方法論を見つけるしかないんです」
野沢さんがこう断言できるのは、一年365日、常に腰と相談しながら生きているから。腰としっかり向き合うことで、少し違和感があればそれを嘆いたり不安に駆られるのではなく、そこに至った原因を突き詰めていけるようになったという。まるで夫婦や友達に対するような付き合い方は、ひとつの境地と言えよう。
「以前はウォーキングがいい、と聞けば5時間も6時間も歩いてました(笑)。そんなの逆に腰によくないですよね。でも最初に発症した頃から高尾山など東京近郊の山には平均して月2〜3回は登っています。同じ山を何度も登ることでその時々の腰の状態の違いが把握できますし、何よりも帰りに温泉に行くのが楽しみ。それももちろん腰のためで、登山以外でも、腰の調子がいい日はスーパー銭湯に2時間歩いて行き、ゆっくり湯に浸かって腰をいたわります。個人的に腰にいいと思うのは、にごり湯系の温泉ですね」
野沢さんの普段着も山仕様に変化していった。シューズはもちろん、スパッツや吸湿速乾性のシャツ、アウターなど。言うまでもなく動きやすく軽いので腰への負担も少ない。
「昔さんざん履いていたごつくて重量のある革のブーツは家に眠りっぱなし。生地が伸びないジーンズを穿く機会も、衣装として用意されているとき以外はほとんどなくなりました。あと欠かせないのが腰ベルト。腰に爆弾を抱えたときから、しょっちゅう新製品を購入しては良し悪しを分析しているんです。今まで40〜50本は買ったかな(笑)」
自らの腰痛体験を語る野沢さんの口調はあくまで明るく、悲壮感のようなものは感じさせない。
「それは僕が腰痛と付き合うなかでプラス思考になったから。昔は少し腰が痛いと“明日はもっとひどくなるのかな”と不安だったけど、今は“今日は調子が悪かったな”でおしまい。そういう気持ちの切り替えができるようになったのは大きいと思います」



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『毛ガニの腰伝説』
31歳で椎間板ヘルニアを患って以来、30年以上腰痛とともに歩んできた野沢さんの経験が記された一冊。ベテランの腰痛持ちによる一言一言に重みがある。KADOKAWA、1,600円。


本誌711号では、「毛ガニストレッチ」の一部を紹介!


Tarzan No.711 首&肩甲骨&骨盤 掲載 〉
取材・文/黒田 創 撮影/藤尾真琴