Apr27Thu

皮膚呼吸できず死ぬ? まことしやかに流れる噂を検証してみた。

2016.12.01

遡れば1960年代、全身に金粉を塗られたダンサーが死亡するという、ショッキングな映画のシーンが始まり。それ以来、皮膚呼吸できなくなると死ぬ、と信じてきたけれどホントにそう? そもそも人は皮膚呼吸するの? 根本的な疑問を専門家にぶつけた結果、いよいよ半世紀の謎が解けます!

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【 ウワサ 1 】 ボディペイントで死亡する。
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呼吸にまつわる都市伝説で何よりも有名なのが、「ボディペイントをすると皮膚呼吸が行えなくなり、死ぬ」というもの。この黄金伝説の誕生にひと役買っているのが、映画『007 ゴールドフィンガー』。裏切り者の女性が全身に金粉を塗られて殺されるシーンがある。ホントに皮膚呼吸ができないとヒトは死んでしまうのだろうか。
皮膚呼吸とは、皮膚から直接酸素を取り入れたり、二酸化炭素を出したりするもの。「ヒトは分厚い皮膚に覆われているため、皮膚での呼吸はほとんどできません。酸素と二酸化炭素のごく一部が表面の角質層を通過するだけで、皮膚呼吸で取り入れる酸素は全体のわずか0.6%にすぎません。たとえボディペイントで皮膚呼吸を完全に妨げたとしても、それが原因で死ぬことはないのです」(札幌医科大学医学部の當瀬規嗣教授)。
ただし金粉を塗られると汗腺が塞がり、汗がかけなくなる。同時に熱の逃げ道も塞がれるため、体温が下げられなくなり、放置すると熱中症で死ぬ恐れも。


【 ウワサ 2 】厚化粧は皮膚呼吸を妨げるから美容上マイナス。
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美容健康業界では「皮膚呼吸を妨げると病気になる」とか「皮膚呼吸を促進するとお肌が健康になる」といったPRが行われる場合がある。しかし、皮膚呼吸はカラダが備えている生理的な機能ではなく、一種の物理的な現象。つねに酸素を消費し、二酸化炭素を排泄する呼吸を行っている体内は、外気よりも酸素濃度が低く、二酸化炭素濃度が高い。この濃度勾配を埋めるために自然と酸素が入り、二酸化炭素が出ていくだけ。確かに皮膚呼吸で入った酸素は皮膚表面の細胞で消費されるが、たとえそれが阻害されても美容にも健康にも大きな問題はない。呼吸の主役は肺であり、肺呼吸が正常なら皮膚の細胞が酸素不足に陥る心配はないのだ。付記するなら肺呼吸も、皮膚呼吸と同じく外気を取り入れた肺胞と毛細血管の間の濃度勾配を利用して行われている。
厚化粧が美容、健康にダメージを及ぼすとしたら、汗腺や皮脂腺を覆って働きを妨害したり、常在菌に何らかの悪影響を与えたりするケースが考えられる。


【 ウワサ 3 】炭酸泉のお風呂で血行が良くなるのは皮膚呼吸のおかげ。
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夜風で冷え切ったカラダを芯から温めるのが、お風呂。そして浴槽でカラダを温める温熱効果を高めるのが、炭酸ガスを発生させる入浴剤だ。
炭酸ガスの正体は二酸化炭素。酸素と同じように、二酸化炭素も角質層を通過し、一部は真皮まで浸透する。入浴剤からは高濃度の二酸化炭素が発生するから、お風呂のお湯とともに真皮まで届く量もそれだけ増える。
かくして体内の二酸化炭素の濃度が上がると、末梢の血管は拡張する。「二酸化炭素は呼吸の結果生じる老廃物ですから、血管を広げて代謝を早めて、素早く排出しようとするのです」。
この性質を利用したのが、炭酸ガス系の入浴剤。温かいお湯自体も血管を広げて血行を促すが、そこへ二酸化炭素が加わるとより血管が広がり、血行が良くなってカラダが温まりやすい。
ちなみに最近話題の水素は、酸素や二酸化炭素よりも分子が小さい。湯船で水素ガスを高濃度で発生させると容易に体内に入るが、水素がヒトにどう効くかは、まだよくわかっていない。


Tarzan No. 708 呼吸と姿勢 掲載 〉
取材・文/井上健二 イラストレーション/大谷リュウジ 取材協力/當瀬規嗣(札幌医科大学医学部教授)