Jun23Fri

走って泳いで島渡り! SWIMRUN RACE REPORT

2016.08.26

世界中で人気が高まるSWIMRUNレース。
遠くイギリスの島を舞台に開催された大会を紹介!

スタートのフォーンが鳴り、その時が来た。小さな町の一角から168人のアスリートが一斉に走り出す。2.5kmのトレイルを終え、目に飛び込んできたのは、岩場から次々と海へ飛び込んでいく先頭集団。思わず2人に緊張が走る……。

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日本から約1000km。イギリス南西に静かな島嶼群がある。本島最南西の都市ペンザンスからフェリーで3時間。5つの大きな島には美しい緑の丘陵に崩れ落ちた城跡が佇み、不思議な雰囲気を放つ。
そんな静かな島にこの日、普段の観光客と異なる、日焼けした男女が次々と上陸した。
その理由が、イギリスで初開催となるスウェーデン発祥の『OTILLOスイムランレース』。欧米を中心に人気が高まる風変わりなレースのシリーズ。その今回の舞台が、このシリー諸島なのだ。
何が風変わりかって、海、川、湖などで行われるオーシャンスイムと、小さな島を舞台にトレイルランニングを“繰り返す”こと。
そう、シリー諸島でのレースも、アイランドホッピングをするように、次の島へ次の島へと泳いで渡る。

コースの中には城跡を通ることも。のどかなシリー諸島の光景だ。
コースの中には城跡を通ることも。のどかなシリー諸島の光景だ。

しかも、息つく暇なくランとスイムを繰り返すこのレースにはパートナーが欠かせない。2人1チームで行われ、チームは男女混合でも構わない。2人はレース中10m以上離れてはいけないのがルール。なので、お互いをロープで繫ぎ、牽引し合うチームもある。そんなレースに日本から我々、宮原海と高山英恵のチーム〈SEAFLOWER〉が初の日本人チームとして参加した。

宮原 海さん(右)、高山英恵さん(左)。
宮原 海さん(右)、高山英恵さん(左)。

初めてのスイムラン、装備、練習に戸惑う2人。

レース当日までは調整に次ぐ調整の日々。チーム練習の開始は2月の湘南、水温は13~14度。
「本番と同じか、それより辛い練習をするべき」。これが宮原の口癖だ。レースに近い環境を心掛け、2人で冬の海でのオーシャンスイム→トレイルランの反復練習を実行。スイムラン特有の装備は幾度となくテストを繰り返した。

スイムトレーナーなど、泳ぎが強い選手が集まる。
スイムトレーナーなど、泳ぎが強い選手が集まる。

もちろん情報収集も欠かせない。過去のスイムランレースの出場者のブログや、体験記を参考に自分たちに合う装備を探す。シューズを履いて泳ぐこともあり、パドルや浮具の使用も可能だ(ただし、装備はゴールまで持ち運ぶのが条件)。
いろいろと参考になる例はあるが、装着しない間もストレスなく運べるようにするのが難しい。2人が満足する出来栄えに仕上がったのはレース直前の週末だった。
そして迎えた本番当日。15か国84チームとともに、過酷なレースの火蓋が切られたのだ。

パドルと浮具は使用可。ただしゴールまで落とさず持っていくのが条件。コースの自然を大切にするのもルールの一つ。
パドルと浮具は使用可。ただしゴールまで落とさず持っていくのが条件。コースの自然を大切にするのもルールの一つ。
晴天のもと、島中から集まった人々に囲まれ、一斉スタート。
晴天のもと、島中から集まった人々に囲まれ、一斉スタート。

襲うアクシデント、厳しい自然が2人を阻む。

目の前で海へ飛び込む先頭集団を前に、宮原の足はすくんでいた。というのも、レース前日の練習の際、初めて素足でイギリスの海の冷たさを体感したからだ。この冷たさが、体温ばかりでなく、宮原の自信まで奪っていた。
無理もない。この海域は水温14度を下回ることもある。トライアスロンではスイム中止か距離短縮になる水温だ。それでも、立ちすくんでいるだけではレースが進まない。腹を決め、冷たい海に飛び込む。
練習の甲斐あって順調なペースで私たちは進む。だが、スイムのスピードを落とさないよう、シューズを脱いで泳いだため、冷たい海水にさらされた足は感覚を失っていた。

水温は14度、強い潮の流れ、振り回されるカラダ。
水温は14度、強い潮の流れ、振り回されるカラダ。

ランセクションも決して楽ではない。着替えを行うトランジションがないスイムランレースではランセクションもウェットスーツを着たまま走らなくてはならないのだ。
今度は高山がこのパートで不調を訴え始めた。ウェットスーツの内側に熱がこもり、あろうことか熱中症になったのだ。足が思うように前に出ない。宮原が2人を繫ぐロープで高山を牽引する。
「必ず2人揃ってゴールするんだ」。どちらが欠けてもゴールできない。練習を重ねた2人の思いは同じだ。

行く手を阻む海藻。手足に絡みつき、体力とスピードを奪われていく。
行く手を阻む海藻。手足に絡みつき、体力とスピードを奪われていく。
丘を越え、海岸線を進み、島中を走り回る。
丘を越え、海岸線を進み、島中を走り回る。

自然の壁を乗り越え、さらに2人の結束は強く。

スタートから27km強。レースが進み、高山の体調も徐々に回復してきた。残るはスイム2.3km、ラン7.3kmだ。まだ気を抜くわけにはいかない。ふと、名残惜しさがこみ上げてきた。このスイムは、これまで嫌になるほど練習を重ねてきた2人の最後のスイムなのだ。
だが、いざ泳ぎ始めると感傷に浸る暇もない。島々を渡るスイムランらしく、外洋からの強い潮の流れに大きく押し流される。いくら泳いでも目標の島に辿り着かない。
時間が経つにつれ、感覚を失う足先。海に入って1時間を超え、体温とともに気力まで奪われていく。
とその時だ! 苦戦する2人に運営ボートからルートアドバイスが飛んできた。残り少ない体力と気力を振り絞って、なんとかゴールのある島を目指す。

安全対策は万全。時折、スタッフからコースアドバイスが飛ぶ。
安全対策は万全。時折、スタッフからコースアドバイスが飛ぶ。

そこからの最後の7.3kmランは島民や観光客の声援を受け、さながらウィニングロードだ。宮原も高山も思わず笑みがこぼれる。出迎えてくれるゴールゲート。私たちは何よりもまず、お互いを抱きしめ合う。練習を共にし、互いを支え合えるチームを作り出せた瞬間だ。
スイムランは、スイムとランをシームレスに繰り返し行う新しい感覚のスポーツ。自然の中を縦横無尽に動き回る自由さが何よりの魅力だ。
個人だけでなくチームとして、最大のパフォーマンスを出すための準備もスイムランの醍醐味。
レース誕生から10年が経ち、今や世界中でレースが開かれている。
今後は島国である日本での開催も期待できるだろう。
次のスタートに立つのは……そう、あなたたちだ。

村内がコースになることも。可愛いサポーターに元気をもらう。
村内がコースになることも。可愛いサポーターに元気をもらう。
優勝チームはイギリスのトライアスリート。記録は5時間2分。
優勝チームはイギリスのトライアスリート。記録は5時間2分。

ÖTILLÖ SWIMRUN ISLES OF SCILLY

〈レース概要〉
2006年、元プロアドベンチャーレーサーのマイケル・レメルとマッツ・スコットが中心となって立ち上げた。4人のスウェーデン人の酒飲みがした賭けをきっかけに、現在は世界中で開催されている。

ORGANIZER INTERVIEW大事なのは、楽しむこと。そうすればパフォーマンスも上がるはず。

Michael Lemmel(右)、Mats Skott(左) 世界トップクラスのチームに所属していた元アドベンチャーレーサー。2006年からOTILLOスイムランレースを開催。スイムランのムーブメントを世界に広げている。
Michael Lemmel(右)、Mats Skott(左)
世界トップクラスのチームに所属していた元アドベンチャーレーサー。2006年からOTILLOスイムランレースを開催。スイムランのムーブメントを世界に広げている。

Q. この大会を始めたキッカケは?
4人のスウェーデンの酒飲みがした賭けが始まりです。その賭けは、ストックホルム群島の端から端まで、スイムとランで誰が一番早く渡り切れるかというもの。これをイベント化しようと持ちかけられたのがきっかけです。

Q. レースを通じて何を人々に届けたいと考えていますか?
もちろんスピードを競い合う楽しみはあります。しかし、それ以上に自然や、一緒にレースに出るライバルを尊敬する気持ちを届けたいと考えています。出場者をはじめとするサポーター、ボランティアを含めたレースに関わるすべての人と共有したい考えです。

Q. どんな人たちにこのレースに参加してほしいですか?
挑戦する意欲がある人ならどんな方でも歓迎します。タフなレースですが、一方で競技者同士のコミュニケーションは温かみがあり、優しさが溢れるレースです。レース未経験者から、タイムを狙う上級者まで幅広く参加いただけます。

Q. これからレースに参加する人へアドバイスはありますか?
コースマップを熟読することや、オーシャンスイムのトレーニングも必要でしょう。装備を最低限にすること。天候の変化に動じない精神を持つこと。そして共にレースに出るパートナーの長所と短所を知っておくことも欠かせません。そして、これら以上に大事なことは、レースを楽しむこと。楽しむことができれば、きっとあなたの最大のパフォーマンスを発揮できるはずです。


●みやはら・うみ ニューヨーク生まれ。ロングディスタンスを中心に参戦するトライアスリート。2015年にはアイアンマン70.3世界選手権出場、サハラマラソン完走。
●たかやま・はなえ 大阪生まれ。トライアスロン、アドベンチャーレース参戦中。2016年アドベンチャーレース世界選手権XPDに出場予定。


〈Tarzan No. 702掲載〉
取材・文/高山英恵、宮原 海(SEAFLOWER) 撮影/Matti Rapila Andersson、Nadja Odenhage  協力/OTILLO SWIMRUN