Jun23Fri

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』

2016.07.14

今こそ知っておきたい、60年前の赤狩り時代。

チータ:今回は『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』。これは映画ファン必見の作品ですね。
ターザン:赤狩りが吹き荒れた1950年代という、ハリウッドの黒歴史の重要な一ページを描いた映画なんだよね。ま、最近は洋画を見ない人も多いから、映画ファンならハリウッドの歴史を学びなさいと言っても響かないのかもしれないけど。
チータ:同じ時代のハリウッドをコーエン兄弟が描いたのが4月に公開された『ヘイル、シーザー!』でした。
ターザン:コーエン兄弟は独特のシニカルな視点で俯瞰した感じで描いてたから、何が言いたいのかよく分からなかったけどね。これは赤狩りで弾圧された脚本家トランボに寄り添って描いた映画で分かりやすい。
ジェーン:赤狩りという言葉は聞いたことがあっても実態をよく知らなかったので、勉強になりましたよ。映画史うんぬんというより、現代史として知っておくべきですね。
ターザン:ジョージ・クルーニーの『グッドナイト&グッドラック』とか、赤狩りを描いた映画は他にもいろいろあるんだけどね。
チータ:米ソ冷戦の初期、アメリカでは共産主義への反感と恐怖から、共産主義者を排除しようという〝赤狩り〟の動きが起きたわけです。ハリウッドの左翼的な映画人も槍玉に挙げられ、国家に対する反逆者として弾圧された。その中の一人がこの映画で描かれるダルトン・トランボ。

article_20160714_699_cinema_main
Photo:Hilary Bronwyn Gayle

ジェーン:トランボがハリウッドから干された時期、家族を食わせるためにはどんな仕事でもやらなきゃってんで「女のハダカが出てくりゃ内容は何でもいい」とか言ってるB級映画プロデューサーのところへ行って、どんな企画でも片っ端から引き受けて、バンバン書き飛ばした脚本を見せて「お前は天才か!」と言わしめちゃうの。超カッコイイわ。
ターザン:才能とバイタリティがあって、自分が投獄される身になっても決して仲間の名前は売らないという正義の人。一種のヒーロー物だね。
チータ:映画だから美化されてるとは思いますが、才能は掛け値なしですよね。ハリウッドから追放されて偽名で書いた脚本作品に『ローマの休日』や『黒い牡牛』など。名誉回復してから実名で書いたのが『スパルタカス』『パピヨン』『ジョニーは戦場へ行った』などなど……っていう超巨匠なのであります。
ターザン:『黒い牡牛』はDVD化されてないけど、スターチャンネルで放映されるらしいぞ。
ジェーン:そんなトランボを弾圧する非米活動委員会の連中は悪役らしく、すごくいやらしく描かれてて。史実を語るという観点からは誇張しすぎなのかもしれないけど、娯楽映画的に面白く見られます。
ターザン:でも、ヒーローが悪人をやっつけて万々歳っていう描き方はしてないよ。
チータ:トランボは弾圧者への怒りを創作のエネルギーにしてたんだけど、最後は敵に勝つことじゃなくて、家族への愛によって怒りから解放される。実はホームドラマだったんだっていうところへ持っていくんですね。この映画自体の脚本もよく書けてますよ。
ジェーン:アメリカ映画には珍しい、控えめでやさしい奥さんを演じてるダイアン・レインがいいんだなあ。
ターザン:嫁がダイアン・レインで娘がエル・ファニングだったら、親父は誰だって頑張るわ。
チータ:ソ連への恐怖と左翼インテリへの大衆の反感が赤狩りを生んだのだとしたら、今、テロへの恐怖と、エリートにもマイノリティにもなれない〝中の下〟の人たちの不満がトランプ現象を生んでるわけです。誰かを〝敵〟に認定して寄ってたかって石を投げるというのは、日本も似たような流れに……。
ターザン:いや、日本国内のことは炎上したらめんどくさいから何も言わない方がいいぞ。
チータ:うわぁ、トランボに比べて、まったくヘタレですね。

cinema_icon_tarzan_web
ターザン
「反◯◯」って考え方に陥ると、大事なものを見失ってしまいますよという教訓。

cinema_icon_jane_web
ジェーン
アカデミー賞にノミネートされた主演ブライアン・クランストンがさすがの名演。

cinema_icon_cheeta_web
チータ
最近、コメディ監督が社会派作品を撮る例が多いのは、アメリカ社会の危機?


『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』
反共産主義の赤狩りが猛威を振るった50年代のアメリカ。ハリウッドの売れっ子脚本家トランボは共産党員として追及され、証言を拒んだために投獄されてしまう。業界から追われた彼は家族に支えられながら脚本を書き続ける。偽名で発表した『ローマの休日』『黒い牡牛』はアカデミー賞を受賞した……。
監督/ジェイ・ローチ。出演/ブライアン・クランストン、ダイアン・レイン、ヘレン・ミレン、エル・ファニングほか。7月22日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開。
©2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

〈Tarzan No. 699掲載〉
構成・文/黒住 光