Aug23Wed

『この世界の片隅に』

2016.11.17

ポスト宮崎という言い方はやめてください。

チータ:今回は日本のアニメ『この世界の片隅に』です。
ジェーン:大号泣です! どんだけ泣かせるのってくらい泣きました。
ターザン:泣くけどさ。そういう言い方すると、あざとい「お涙ちょうだい映画」みたいに思われるだろ。
チータ:戦時中の広島を舞台にした話で、大手映画会社の製作ではなくて、クラウドファンディングで支援者を募って映画化にこぎつけた……なんて紹介の仕方をすると、反戦左翼映画みたいなレッテルも貼られちゃいそうですが、そういうことじゃないんですよね。
ジェーン:違うんです。主演の「のん」ちゃんも言ってたけど……。
チータ:あ、「のん」こと元能年玲奈ちゃんがヒロインの声を演じてることでも話題な映画で。
ターザン:いろいろと色メガネで見られそうな作品なんだよな。彼女の起用は話題作りとかじゃなくて、いや、そういう打算も少しはあるにはあるかもしれないけど、とにかくこの人の声しかないって監督が惚れ込んだからなんだよね。
ジェーン:素晴らしいです。のんちゃんの声聞いてるだけで泣けてくる。
チータ:いわゆるアニメ声優の記号的な演技じゃないし、一般俳優のナチュラル演技でもなくて、彼女の存在の天然素材ぶりがヒロインそのものとシンクロして、ぐっと迫ってくるんですよ。
ターザン:うん、スゴいよね。今後仕事が来なくても、この一作だけでも映画史に彼女の名が残るっていうくらいスゴいよ。
ジェーン:で、のんちゃんが「戦争は遠い世界の話じゃなくて、自分たちの生活と隣り合わせにあるんだって実感できた」みたいなことを言ってて、それがすべてを言い表してる。だから戦争は怖いって話じゃなくて、どんな状況でも毎日の生活が人生だっていう。生きてる人ガンバレっていう映画なの。

©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

チータ:こうの史代の原作マンガが、そもそもそういう世界の捉え方なんです。お料理とかお裁縫とか、家事を丹念に描写していく。ちなみに小社刊『ダカーポ特別編集 最高の本!2010』でマンガ部門第1位になった作品ですよ。
ターザン:で、アニメの表現もスゴいんだ。ヒロインが絵を描くのが好きっていう設定なんだけど、アニメ全体が絵を描くことの喜びに満ちているっていうかね。
チータ:現地で徹底取材して、原爆で消え去る前の広島の風景を再現しているらしいんですけど、そういう執念で描き込んだ重さはなくて、柔らかくて温かい画風なんですね。
ターザン:言っておくけど、『君の名は。』と比較するなよ。あれをディスると炎上するらしいから。
ジェーン:その言い方がすでにディスってんじゃないの?
チータ:まあまあ、評価は人それぞれですが、今年は『君の名は。』『聲の形』と、そしてこの作品が評判で、アニメの当たり年と呼ばれてるんですよね。
ジェーン:やっぱ宮崎駿が引退したことと関係あるのかな。大御所が席を譲れば若手が伸びてくるっていう。
チータ:『この世界の片隅に』の片渕須直監督は若手じゃなくて大ベテランですけどね。
ターザン:『魔女の宅急便』の演出補をしていて「スタジオジブリ出身」みたいに言われたりするけど、もっと初期から宮崎駿、高畑勲作品に関わってた人で、ジブリの社員じゃない。
チータ:特に高畑勲の影響が強いんじゃないですかね。『マイマイ新子と千年の魔法』も日常生活のディテールを描いて評価された作品だったし、『この世界の片隅に』の水彩画風のタッチとかは高畑の『かぐや姫の物語』に近いものがあります。
ターザン:真面目そうで、重たそうで、一般受けしなさそうという先入観を捨てて見てほしい。メッセージ性じゃなくて、表現の達成度の高さに感動する作品で、そういう意味じゃ『シン・ゴジラ』に近いんですよ。

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ターザン
芸術です。小難しい意味じゃなくて、真に迫ってるという意味で芸術なんです。

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ジェーン
思い出しただけで泣けてくる、自分の胸の中にすずさんがずっと生きてます。

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チータ
アニメーションって何なのか、ということを考え直させてくれると思います。


『この世界の片隅に』
絵を描くことが大好きで、いつもぼんやり夢見がちな女の子だったすずさんが、18歳になって突然持ちかけられた縁談。一方的に見初められたお見合いで、すずさんは呉の北條家に嫁いだ。時は昭和19年。夫の周作は戦艦大和を造船した呉の軍港に勤務していた。物資の少ない戦時中にやりくりして家事をこなすすずさんに、昭和20年の夏がやってくる……。
監督/片渕須直。声の出演/のん、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月、牛山茂ほか。11月12日よりテアトル新宿ほか全国公開。

Tarzan No.707 「休む」の科学 掲載 〉
構成・文/黒住 光