Apr29Sat

堀江翔太 ラグビー選手

2016.10.25

簡単じゃないのがラグビー、壁をひとつひとつ越えたい。

子供の頃から恵まれたカラダと運動能力で、まわりの選手を圧倒してきた。日本のラグビーを牽引するフッカーは、日本開催のワールドカップを睨む。

堀江翔太

みなさんご存じだと思うが、昨年来、日本のラグビーが熱い。ワールドカップでは、世界の強豪・南アフリカに勝利し、またオリンピックの7人制ラグビーでは、世界ナンバーワンのニュージーランド・オールブラックスに快勝した。さらに、日本チームとしては初めてサンウルブズが世界トップリーグのスーパーラグビーに参戦した。この参戦では、なかなか結果を残すことができなかったわけだが、他の2つの出来事は歴史的快挙と言っていい。一昔前には、こんなことが起きるなんて、誰も考えていなかったからだ。
この日本ラグビーを牽引しているのが、堀江翔太だ。7人制ラグビーには出場しなかったものの、ワールドカップでは副キャプテン、サンウルブズでは初代キャプテンを務めた。日本のトップリーグを戦っているパナソニック ワイルドナイツでも、キャプテン。彼自身も素晴らしい選手であり、世界のどのチームに行ってもレギュラーが獲れるのでは、と言われているほどなのだ。ポジションはフッカー。スクラム最前列の中央に位置し、スクラムハーフからのボールを足でコントロールし、後方へと送るのが仕事のひとつ。ボールがサイドのタッチラインから出たときのラインアウトでも、スローインの役割を担う。さらにはフィールドプレイにも、積極的に参加する。堀江の凄さは、スクラムの第1列中央という、まわりを囲まれたポジションにいるのに、試合の展開次第では、とたんにどのポジションの選手かわからなくなってしまうところ。バックスの選手のように運動量が豊富で、足も速く、グラウンドを縦横無尽に走り回る。見る人は、これがフォワードか!と驚いてしまうわけだ。

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まずは、最近のラグビーはとにかく盛り上がっていますね、と聞いてみると、堀江の口からは意外な言葉が返ってきた。
「いやぁ、あのワールドカップでバーンって勝ったときからは、ちょっと下がってしまいましたね。観客の数も以前に比べては増えていますけど、もうちょっといてくれたらなぁという感じです。日本ではそれほどメジャーな競技ではなかったので、どうやれば盛り上がるか、人気が出るかが、まだわかっていないみたいなんです。それが少し残念ですね。お祭りみたいに日常にはない場所にしてしまえば、みんな楽しんでくれると思うんですが。ただ、ラグビーを知らない人でも、チームの練習を見に来てくれたりするんです。それは、とてもありがたいです」
ラグビーにはひとつ難しい部分がある。それが、ルールだ。たとえば、試合ではたびたび攻守が交代するが、どんな反則に対してのペナルティーかがわかりにくい。ルールが他の競技に比べて細かいから、それを理解するのが観客にとっては大変なのである。ルールを知らない人がラグビーを楽しむにはどうしたらいいか。
「シンプルなのが一番いいと思います。格闘技を見る感じでいいかなって。大きな人がぶつかり合うというのは、生で見ると迫力がありますし、人と人がぶつかる音って、そんなに聞く機会はないでしょ(笑)。バチッてすごい音がしますよ。そういうので楽しめると思います」

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当たったら吹っ飛ぶ、だから、反則ばっか(笑)。

最初に始めたのは、サッカーだった。幼稚園で近所のクラブに入って、小学校4年生まで続けた。この時代は、ちょうどJリーグの発足した頃に重なっている。
「ボールに慣れるというか、脚でさばくとか、横の動きとか、ボールとの距離感がしっかりしているとか、今もそれができているのはサッカーのおかげですね。4年でやめたのは、まわりがあんまり真剣にやっていなかったから。チャラかったんです。それで、違うなと思って。しかも、僕、フォワードだったのに、試合のときに誰もキーパーをやらないから、イヤイヤやったら結果を残しちゃった。それで、流れ的にこのポジションをやることになってオモロないなって(笑)」
それで、ラグビーへと転向することになる。小学校5年になると、吹田ラグビースクールに通い始めたのだ。この競技は、知っていることは知っていた。両親が好きで、テレビで観戦していたからだ。それでも、横目でチラッと見る程度。どんな競技かは詳しくはわからなかった。
「面白いって思う前に、いきなり試合に出されて、ルールを全然知らないから反則しまくって、上手くなりたいという気持ちが芽生えましたね。カラダがでかかったんです。小学校6年生で体重が77kgあって、ボール持ってとりあえず走っとけば、トライできるっていう感じだから、みんなにも頼られて。大きいヤツが頼られるスポーツって他に知らなかったので、スポットライトが当たったようで、気持ちよかったですね」

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そして、小学校6年生になると、ラグビーと並行してバスケットボールを始める。ただ、堀江はこの競技は嫌いだったと言う。その理由が「チャラチャラしてて、服もだらしない(笑)」というから、またか!という感じ。でも、友達に誘われる格好でクラブに入ったのである。
「入ってみるとけっこう真剣にやっているし、競技自体も面白かった。バスケではセンターをやっていたのですが、フィジカルの部分では負けなかったですね。リバウンドとか全部拾ってましたし。ただ、ちょっと当たっただけで相手が吹っ飛んでいくので、やっぱり反則ばっか(笑)。でも、バスケをやったことで、ステップワークとハンドリングスキルを磨くことができた。今でも、カラダを回転させて、相手をよけてとかは、全部バスケで身についたことです」
高校へ進学。大阪はラグビーの強豪校が揃っている。啓光学園、東海大仰星など。しかし、堀江が選んだのは公立の島本高校だった。
「啓光学園に行きたかったのですが、親に公立にしてくれと言われて選びました。といっても、島本高校は僕が入る前に4回全国まで行っている強豪校なんですけど。それまでやっていた吹田ラグビースクールは、今は強いですが、僕のときはお遊びに近かった。だから、高校へ入ってから、すべてを学んだというか。モール(ラグビーでの密集戦のひとつ)の作り方も知らなかったし、パスやタックルなど基本的なことも知らなかった。だから、ここが僕にとって本格的なラグビーの原点ですね」

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高校3年生のときに、全国高校ラグビー大会大阪府予選で決勝にまで進む。相手は東海大仰星。結果は惜敗。堀江は花園に行けなかった。そして大学は関東の雄・帝京大学。ここで、より高度なテクニックや戦術を学んでいく。現在、帝京大学は5年連続で、関東大学対抗戦で優勝しているが、この礎を築いたのが堀江たちの時代だった。そして、ここで出会いがあった。ニュージーランドのカンタベリーアカデミーから招聘されたコーチが、堀江をスカウトしたのだ。卒業後、彼は勧めに従って留学することにした。同時に、これまでのポジション、フォワードの最後尾のエイトから、最前列のフッカーへの転向を決意したのである。
「上を目指すからには日本代表にならなくてはいけない。でも、エイトではこの身長じゃあ通用しないと思ったんです。僕は180cmですが、世界でやるには最低でも185cmは必要。フッカーなら、この身長でも大丈夫だから、やることにしたんです。最初はメチャメチャ難しかったですよ。スローインもスクラムも前はやっていなかったことが、プラスアルファでついてくるんですから。しかも、相手がニュージーランドの選手ですから、フィジカルも凄かった。ただ、その中でやれたことが、今に繫がっていると思っています」
1年間の留学を経て、三洋電機ワイルドナイツに入団。2013年からスーパーラグビーのレベルズ(オーストラリア)でプレイし、現在はパナソニック ワイルドナイツでキャプテンとしてチームを引っ張っているのである。

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これまで果たせていないベスト8を目指したい。

さて、この取材では実際に練習しているところを見せてもらったのだが、それは堀江自身が言っていたように迫力の一言に尽きた。チームで敵味方に分かれた試合形式の練習だから、本番のようにはぶつかっていないのだろうが、見ているほうはただ驚くばかりである。最長で2時間の練習時間となる。それにプラスして個人的に行うのがウェイトトレーニングである。堀江には絶大な信頼を寄せる佐藤義人さんというトレーナーがいる。
「まかせっきりですね。ウェイトトレーニングは挙上回数が25回というのが基本。それを3セット。背中系が中心です。25回できる重さというのは、僕の中では筋肉の中身を埋めるという感じ。重いウェイトで回数が少ないというのは、筋肉の表面を強くして、大きくしていく作業のように思えるんです。それって、中身が空洞のままというイメージがあって、すぐケガに繫がるような気がする。見せるための筋肉なら、それでいいけれど、僕はこれからケガを少なくしたいので中身を埋めていきたいんですよね。全部、佐藤さんの受け売りですけど(笑)」
盛り上がったワールドカップは3年後の19年には、いよいよ日本にやってくる。堀江は今30歳だから、33歳で出場することになる。脂が乗り切った年齢と言っていいだろう。これからのラグビーに懸ける意気込みを語ってもらおう。
「19年の結果をよくするために、どれだけ自分がいい状態を保っていられるか。それを考えながら、プレイしたりトレーニングをしています。次はこれまで果たせていなかった、ベスト8を目標にしています。戦術とか技術面は高まっているので、いい感じではいけていると思います。が、まぁ、そんなに簡単にいかないのがラグビーなので、これからいろんな壁が出てくるはずです。それを、ひとつひとつ越えていきながら、3年間を大事にやっていかないといけないですね」


●ほりえ・しょうた 1986年生まれ。180cm、106kg、体脂肪率17%。帝京大学ラグビー部では、大学選手権で4位。2010年、トップリーグの最優秀選手に選出される。14年、パナソニック ワイルドナイツで主将を務め、トップリーグと日本選手権で優勝。15年、ワールドカップ・イングランド大会に出場。16年、サンウルブズの主将としてスーパーラグビーに参戦。


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取材・文/鈴木一朗 撮影/藤尾真琴