May30Tue

ミネラルをチャージする。

2017.05.04

ある日の夕食時のことだ。たっぷりの野菜が盛られたミックスサラダの上に、ツナの和え物とおぼしきものがトッピングされていた。口にしてみると、シャキシャキとした食感。ツナなのにこの歯ごたえは一体なんだろう?不思議に思い、加藤超也シェフに尋ねてみると、
「ツナと切り干し大根のヨーグルトマリネです」
との答え。管理栄養士の石川三知さん直伝のレシピだという。なんともユニークな組み合わせだが、これにはある狙いが隠されていた。ミネラル、ことにカルシウムの補給だ。

カルシウムといえば、現代日本人が最も不足しがちな栄養素(※1)であることはよく知られている。その充足率は20代男性では5割にも至らず、30〜40代男性でも約6割と非常にお粗末な状態だ。

などと、偉そうなことは言えない。この連載開始時、糖質の摂取を制限していた僕は、乳糖が多く含まれている乳製品を避けていたからだ。牛乳、チーズ、バターなどなどは敢えて口にしなくなっていた。そのことでカルシウムが十分に補えなくなるリスクは理解してはいたのだが。

カルシウムと聞いて誰もがイメージするのが骨や歯などの材料ということだろう。ところが、重要な働きはそればかりではない。

体内のカルシウムの量を100%とすると、骨や歯に含まれているのはこのうち約99%。残りの1%はカルシウムイオンとしてカラダのあらゆる場所に存在している。筋肉の収縮や神経の興奮、ホルモンの分泌や酵素の活性など、細胞同士の情報伝達(※2)にひと役買うためだ。
切り返しやストップ&ゴーといった筋肉の連動が要求される僕のようなアスリートにとっては、この1%のカルシウムイオンがより重要になってくる。

ところが、口から摂取するカルシウムの量が十分でないと、不足分を補おうとして骨からカルシウムがイオン化して溶け出してしまうのだ。それで釣り合いが取れればいいようにも思えるが、ことはそう単純なものではない。

■管理栄養士・石川三知さんコメント
「口から摂取したカルシウムが排出されやすいのに比べ、骨から溶け出したカルシウムは体外に排出されにくいという特徴があります。こうしたことから、カルシウムの摂取量は不足しているのに体内にはカルシウムがだぶついているというパラドックスが生じます。カルシウムが溶け出した骨の密度が低くなるのはもちろんのこと、だぶついたカルシウムは関節や腱に付着(※3)したり、筋肉を硬くしたり、血管を傷つけてしまうこともあるのです。このパラドックスを手っ取り早く改善する方法のひとつが、カルシウムをはじめとする多様なミネラルを含む食材を日常的に摂ることです」

日本の昔ながらの知恵、乾物でミネラルを補給。

多様なミネラルを含む食材、それは意外にも身近にあった。日本に古くから伝わる乾物食材だ。切り干し大根はまさにその代表格。
もちろん、加藤シェフはこのことを承知していたのだろう。乾物を利用した副菜や付け合わせをさりげなく食卓に乗せていた。今回のように切り干し大根のヨーグルトマリネという斬新なレシピはさすがに初めてだったが。

■加藤超也シェフコメント
「日本に帰国する際には、スーツケースがいっぱいになるくらい乾物を購入してイタリアに持ち込んでいました。主に、ヒジキ、切り干し大根、海藻ミックス、干しシイタケ、海苔、高野豆腐、昆布、鰹節、煮干し、これらは随時ストックしています。昼食は基本的にクラブハウスでの食事なので、海藻類などからのミネラル補給がしにくい状態です。そこで自宅での夕食メニューには乾物系を利用し、カルシウムやミネラルを補うよう意識していました」

乳製品は避けてきた僕だが、ヨーグルトだけは別。無糖ヨーグルトを水切りして乳糖の成分を除いたうえで、カルシウム補給のためにむしろ積極的に口にしていた。そのヨーグルトと、カルシウムやマグネシウム、鉄などのミネラルを豊富に含む切り干し大根のコラボレーション。これはもう最強というわけだ。

ちなみに、簡単にレシピを紹介しておこう。
軽く水洗いした切り干し大根をよく絞って、その10倍の量のプレーンヨーグルトにひと晩漬ける。切り干し大根が戻ったら、ツナ、レモン汁、少量の塩と和える。実に簡単。そして美味しい。和風の味付けにするなら、すりゴマなどを加えてもいいそうだ。

ツナと切り干し大根のヨーグルトマリネ
切り干し大根を軽く絞るのは、ミネラル類を減らさないためだ。

乾物というと、一見地味。現代の日本の食卓に登場する機会も減っているかもしれない。でも、欧米人のように乳製品を食べる習慣のなかった日本人が、どこからカルシウムやミネラルを確保していたかといえば、海藻や小魚や乾物類からだった。そんな話を聞いたことがある。
ハードな運動をこなすアスリートだけではなく、カルシウム不足に陥りがちな現代人は、こうした昔ながらの日本人の知恵を生かすことが、今こそ必要かもしれない。


※1 不足しがちな栄養素
カルシウムに関しては食事摂取の統計を取り始めてから一度として充足率が100%に達したことがない。

※2 細胞同士の情報伝達
細胞内外に存在するカルシウムイオンは細胞膜を行き来して濃度変化をもたらし、情報伝達を行う。

※3 関節や腱に付着
血液中のカルシウムは常に一定に保たれているため、余剰分が生じると細胞に沈着し石灰化することも。


●ながとも・ゆうと 小学校1年でサッカーを始め、東福岡高校、明治大学を経てFC東京でプロデビュー。2010年イタリアに渡り、現在インテル・ミラノに所属。


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構成/石飛カノ 撮影/中島慶子 監修/石川三知(Office LAC-U)