Apr25Tue

食べる順番を考える。

2017.03.19

学生時代からつい最近まで姉の麻步が僕の食事の世話をしていたことは、すでにお話しした通りだ。
その間は、食事の時間が何時何分と決まっていたら、その時間にすべての料理が食卓に揃えられているのが常だった。
たとえばある日の昼食ならば、グリーンたっぷりのサラダ、魚のムニエル、野菜の副菜2〜3品、味噌汁、ごはん。僕はまず最初にサラダを口にし、野菜を食べながら魚や副菜、味噌汁やごはんに箸を伸ばすという食べ方をしていた。

だが今は、それとはまるで異なるスタイルで食事を摂るようになっている。フレンチのコース料理のように、ひと皿ずつを食卓に乗せ、順番に食べるようになったのだ。大体の食べ順はスープ→サラダ→前菜→タンパク質→炭水化物。
これは、加藤超也シェフの提案だ。

■加藤超也シェフコメント
「短時間の食事では血糖値が一気に跳ね上がり、その後、急激に下がるというグルコーススパイク(※1)が起きやすい状態になります。これを繰り返すうち、グルコースが枯渇しやすく、スタミナ切れを起こしやすい体質になってしまいます。そこで血糖値の安定化を図るために、スープを飲んだら次はサラダ、サラダを食べ終わったら次は肉、とフルコースのようにひと皿ずつ提供するスタイルを取り入れました」

血糖値の乱高下は僕のようなアスリートにとってスタミナ切れの原因になるばかりではない。インスリンの急激な分泌が促されることで肥満の原因になることも、今ではよく知られている。メタボ予防という意味でも聞き逃せない話なのだ。

さて、自宅でコース料理をシェフに提供してもらっているというと、いかにも贅沢に聞こえるかもしれない。でも正直なところ、僕にとってはかなりシンドい食べ方だった。練習後はとにかく空腹感が先に立ってしまうので、早く食べたいという欲求を抑えられなかったのだ。
最初のうちは、自分のペースで食べたいという思いが強く、「早めにちょうだい」とお願いすることが比較的多かった。
ところが、毎日のようにそんな食べ方をしているうちに、以前ほど激しい空腹感を感じないようになっていった。この変化には自分でもちょっと驚いたほどだ。

■管理栄養士・石川三知さんコメント
「血糖値が急上昇するケースは、空腹時に甘いものを口にするか、糖質食品を早食いするかのどちらかです。後者の場合は食べる順番を重視することで同じものを食べても血糖値を上昇させにくくすることができます。最初に野菜をひと皿完食しておくことは非常に重要。食物繊維が糖の吸収を抑えて血糖値の上昇カーブを緩やかにしてくれるからです」

以前から野菜を最初に口にするよう心がけてはいた。だが、あれもこれもとどの皿にも箸を伸ばせる状況だったので、いつの間にか糖質食品を本能にまかせて口に運んでいた可能性はある。
ひょっとすると、そういう食事のたびに僕の血糖値はジェットコースターのように乱高下していたのかもしれない。
このように、血糖値の安定を意識する以前は、お米を中心におかずを食べる内容がベースだったが、今は調味料も塩ベースが比較的多く、一品ずつ食べて美味しい料理を提供してもらっていることも食事の順番を無理なく意識できたことの要因としては大きい。

ホウレンソウのポタージュ
お気に入りのホウレンソウのポタージュ。撮影/加藤超也

消化吸収の第一歩、咀嚼の大切さを実感。

もうひとつの食べ方の変化は、ゆっくりよく嚙んで食事をするようになったことだ。食事時間(※2)は明らかに以前より長くなった。
食欲にまかせて口にすることがなくなった分、カラダに必要な栄養素をより意識するようになった。その結果、量より質を重視する食生活にシフトしたのだ。

■管理栄養士・石川三知さんコメント
「食物は、口から食道を経由して胃や小腸に運ばれて分解、消化、吸収され、腸管から門脈という血管を通って肝臓に運ばれます。そして肝臓からさまざまな場所へ送られて、カラダの材料になったりエネルギーとして利用されます。
基本的にこの消化吸収プロセスを自分の意思でコントロールすることはできません。でも、消化器官の中で唯一、自分でコントロールできる部分があります。それが口の中で咀嚼(※3)するという作業。咀嚼で十分な唾液が出ると、それに連動するように胃液、膵液、胆汁などが分泌され消化活動が速やかに行われるようになるのです」

時間をかけてゆっくり咀嚼することで、ひとつひとつの食物や栄養素が余すところなく血となり肉となってくれる。
考えてみれば当たり前のことだが、忙しい現代人はその当たり前のことをないがしろにしているのかもしれない。そんなことを考えながら僕は今、毎日の食事をじっくりと味わい、楽しんでいる。


※1 グルコーススパイク
食事で血糖値が急激に上がるとインスリンが大量に分泌され、軽度の低血糖状態になって、空腹感や眠気が生じる。

※2 食事時間
急激な血糖値の上昇を防ぐためには、標準的な量の食事を最低でも20分以上かけて摂取するのが基本。

※3 口の中で咀嚼
栄養素にかかわらず口の中で細かく咀嚼することがその後の消化吸収を助ける。最低15回は嚙みたい。


●ながとも・ゆうと 小学校1年でサッカーを始め、東福岡高校、明治大学を経てFC東京でプロデビュー。2010年イタリアに渡り、現在インテル・ミラノに所属。


Tarzan No.714 気になる糖との賢いつきあい方 掲載 〉
構成/石飛カノ 撮影/中島慶子 監修/石川三知(Office LAC-U)